サービス業はユーザ工学も参照せよ

以前「感動工学」について書いたことがある。
「工学」がつくから理系だし、基本的に「モノ」が対象である。

だから、サービス業の従事者は「自分たちに関係ない」と思いこむ傾向がある。
いまだに、サービス大手企業の経営トップが、製造業を評して「ベルトコンベア」というほどの「時代遅れ」にだれも反論しないのは、そのひとが「偉い」からだが、しゅうへんに「えらい」迷惑を拡散していることにも気づいていないから深刻なのだ。

「おもてなし」を重視するサービス業は、製造業なんかとちがうと自慢するのは「高度な産業」なのだといいたいのだろうが、いいかたの比喩が完全にまちがっているから、従業員にあらぬ誤解を埋めこんでしまうのである。

たしかに「高度な産業」である。
しかし、「高度」という理由は、相手が人間だから、なのであって、それ以上のことではない。

戦後のモノがない時代は、たとえ粗悪品でもそこそこ売れた。
それは、人々の所得も低かったからである。
だから、社会全体が豊かになる(所得もあがる)と、粗悪品では満足できず、高品質なモノを要求するようになって、工業はこれにこたえてきた。

じつは、宿泊業だって、モノがない時代に粗悪な宿しかなかったのは、主たる都市が空襲で焼けてしまったし、焼け残った上質な宿は「接収」されてしまったから、ふつうのひとは利用できなかった。

高度成長期に、観光ホテルが有名温泉地を中心に新築されて、画一的な施設とサービスをもって、大量生産大量消費がおこなわれた。
「大きいことはいいことだ」ったのは、なにも工業だけのはなしではない。

一泊二日で宴会付というスタイルは、「流し込み」状態だったから、ベルトコンベアとかわらない。
唯一のちがいは、施設のなかにベルトコンベアがあるのではなく、「お客の動き」自体がベルトコンベアだったのである。

ところが、70年代に「高度」成長が中折れして、低成長時代に突入した。
当時の月次統計をみれば、石油ショックが原因ではなく、田中角栄内閣の経済政策失敗がそうさせたということも前に書いた。

つくれば売れるの終焉でもあった。
ここから、製造業はがぜんと「高品質」にむかうのである。
しかし、サービス業のおおくは、この変化に対応せず、「守旧」したのである。

その理由は、哲学しなかった、に尽きる。

それで、時代の対応として、カラーテレビと冷蔵庫を各部屋に配置し、それぞれに「料金課金」できるようにした。
つまり、サービスではなく「モノ」の購入で時代を乗り切ろうとしたのである。

そして、その「モノ」自体の品質にたすけられた。
なるほど、「高度」なわけである。
つまり、たまたまだが、「他業種の製品の上」にあるのがサービス業であることがみえてくるのである。

しかして、この構造をいかほどの業界人が意識しているのだろうか?

意識できていれば、「モノ」の選択における「センス」が重視されるようになるはずだが、いまだに「価格」が重視されている。
「低価格」でなければならない。

にもかかわらず、食事のメニューにはやたらとこだわるから、バランスが崩れるのだ。
この崩れたバランスを、利用客が敏感にかんじとれるのは、利用客の生活水準が高いからである。

そんなわけで、わざわざバランスの崩れた環境に身を置くことを避けたくなるのは人情かつ合理性があるので、目的地の旅館ではなくビジネスホテルを予約するのだ。

『ユーザ工学入門』(共立出版、1999年)は、「ユーザ工学」について書かれたわが国で最初の書籍である。

ここにおける「モノ」のはなしは、ものづくりのこだわりがわかるだけでなく、「サービス」に応用できる。

「こだわりのサービス」とはいうけれど、おおくは提供者側の自己満足がみえかくれして、利用者側にそのこだわりが遡及しないばかりか、かえって不便さまで感じさせることまであるのは、ユーザの使い勝手を軽視しているからである。

つまり、「販売」を重視した結果であり、「使用」や「利用」を後回しにしているのである。
だから、たとえばHPに「女将こだわりのウェルカムドリンク」がうんぬん、といった記事をみるのだ。

売りたいのはわかるけれども、それが「前面に露出」すると、押し売りになる。
すると、それが利用者からすれば「嫌われる努力」になるのである。

世の中のトラブルのおおくは、さいしょから悪意があることはすくなくて、「よかれ」としたことが原因であることのほうがはるかにおおいのは、「よかれ」が「押しつけ」になって、しまいには「命令」に変化するからである。

「よかれ」の実行のまえに、一拍おいて相手の「利用」と「使用」を自分で実験するのがよかろう。

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