新宿人と浅草人

東京が「東京市」といわれていたのは1943(昭和18)年6月30日までで、それ以降は、いまとおなじ「東京都」になった。

江戸の範囲はいまよりずっとせまかったのは、1878(明治11)年にできた「15区」をみれば、それがわかる。
・麹町区・神田区・日本橋区・京橋区・芝区・麻布区・赤坂区・四谷区・牛込区・小石川区・本郷区・下谷区・浅草区・本所区・深川区。
これらをあわせて「市」になったのは、1889(明治22)年だ。

1932(昭和7)年になって、隣接する5郡82町村を編入して、あらたに20区ができたから、ここから1947(昭和22)年までは、「東京35区」の時代だった。

さいしょの15区は、いまのなに区かをみれば、おおよそ「江戸」の範囲がわかる。
千代田区(麹町区・神田区)、中央区(日本橋区・京橋区)、港区(芝区・麻布区・赤坂区)、新宿区(四谷区・牛込区)、文京区(小石川区・本郷区)、台東区(下谷区・浅草区)、墨田区(本所区)、江東区(深川区)。

新宿区、墨田区、江東区は、さいしょの15区のほかに近接の町をさらに編入してできている。
すると、もとの15区が8区になって、あとから郡部15区がくわわって、「東京23区」になったことがわかる。

それが、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区である。
これらの「区」は、「江戸」ではなかった。

西の境界にあたる「新宿区」から先の「膨張」と、東の果ての「葛飾区」の「取り込み」という極端がある。

これが、メガシティー東京の「顔」である「新宿」の新宿たる「あたらしさ」だ。
西へ膨張する街の、始発でもあり終着なのは、そのまま鉄道路線がしめしている。

一方、なんだか「古い」イメージの「葛飾区」は、ギネス入りした最長シリーズ『男はつらいよ』の舞台「柴又」が象徴している。
南の江戸川区とならんで、東の境界はそのまま江戸川で、この先は千葉県になる。

いわば、さいしょの15区からみれば、渋谷さえも「郡部」で、「葛飾郡」が東京だという不思議すらあったのではないか?
新宿とならんで、渋谷がターミナル駅になっているのは、「膨張」のエネルギーがそうさせるのである。

いまさら「目黒のさんま」をもちださなくとも、いまではむかしの面影すらない街が、やっぱり「郡部」だったのは「落語」における「リアル」である。

会社の先輩のご母堂は、日本橋蛎殻町のうまれで、大森の農家に嫁ぐとき、近所のひとたちと「今生の別れ」をしたという。
「そんな遠くへ行っちゃうのかい。もう一生会えないね。」といって手を取りながら泣いて別れを惜しんだという。

このエピソードも、たかが戦中のことなのだ。

そんなわけで、街道の宿場町はことごとく「江戸の外」の扱いだ。
品川、板橋、千住。
新宿だって、「内藤新宿」は大正になって「四谷区」にやっと編入されている。

「新宿」や「渋谷」の「あたらしさ」は、その先に膨張する住人たちの「あたらしさ」がつくっている。

70年代のなかばになる「昭和50年代」、いまからすればシリーズのまだ半分にもなっていない新春の「最新作」案内もかねて、有名なインタービュー番組『徹子の部屋』に、渥美清と倍賞千恵子がそろって出演している。

このふたりは、できあがった作品を「かならず劇場で」一緒に観るという。
映画会社の「試写室」ではないのか?との質問を一蹴したのは、「お客様の反応を観るため」だとキッパリ言い切ったのが印象に残る。

映画の出来不出来なら、監督の責任で、現場でじぶんたちは監督の指示にしたがっている。
プロの俳優としては、なによりも観客の受け止め方を知ることなのだと。

それで、新宿と浅草の、両方の映画館に行って、その反応のちがいを観察するのだという。
それは、新宿と浅草とで、観客の「質」がちがうことが理由であった。

どんなふうにちがうのか?
食事のシーンで、帰りがおそい「寅」に腹を立てた「おいちゃん一家」が、「寅」の分の御馳走をたべてしまって、楽しみに帰ってきた「寅」と一悶着がはじまることを例にして、渥美清が解説していた。

新宿の映画館では、帰りがおそい「寅」がわるいのだから、怒りだした「寅」は、さらにわるい、となる。
ところが、浅草の映画館では逆で、どうして「寅」のためにすこしでも取り置きしないのか?「おいちゃん一家」は冷たい、という反応だと。

新宿は「あたらしい日本人」、浅草は「むかしの日本人」がいるからおもしろい。
こんなことを意識しながら演じ手をやっている、と淡々とかたっていた。

おおくの出演俳優たちが物故した『男はつらいよ』を、どうやら最新技術を駆使して、「新作」を制作するらしい。

なんだか「新宿」と「浅草」で観たくなってきた。

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