職人の出前

だれでも「出前」をとった経験はあるが,「デリバリー」になったら有料になった.さいきんでは,デリバリー・ピザの店に出向いて購入すると,「もう一枚『無料』」になるから,配達にするとピザ一枚分が有料ということがわかった.かんがえてみれば,お客が店に出向いて食事サービスをうけるのと,自宅に料理を運んでもらうのと,料金が「同じ」というのは変だ.

とはいえ,出前をむかしからしていたお店が,急に有料にしようとしても,なかなかお客様の理解が得られない,として躊躇するのもわかる.それで,お客がお店にそんな負担をさせていたら,こんどは人手不足で「出前ができない」ことになった.

もう少しすると,出前は追加料金がかかるサービスにかわるだろう.そうでなければ,自分からお店に出向くしかなくなるはずだ.これは,新聞にも,牛乳にもいえる.すると,デリバリー・サービス会社として,ヤクルトがみんな配達してくれる時代がくるかもしれない.

まるでちがう職人の出前

モノのデリバリー・サービスが「出前」だが,これがひっくり返ってヒトのデリバリー・サービスがある.寿司や蕎麦などの職人を自宅によんで,自宅にて作ってもらうサービスである.「無店舗」という業態だ.ちゃんとした店舗を用意する必要がないから,運搬のための自動車と運べる道具類を用意すればよい.おそろしく小資本で開業できるメリットがある.

モノのデリバリーなら,お客は「運ぶだけ」とかんがえがちであるから,「無料」ということに疑問がなかった.しかし,専門の技術をもつヒトが来るとなると,移動時間も有料だとかんがえる余地がある.だから、交通費という請求科目もたちやすい.

ちゃんとした職人でも,家庭によってことなるキッチンをつかっての本格料理提供にはノウハウが必要になる.盛り付けも,できればその家の食器をつかいたい.事前の情報交換にもノウハウがいるだろう.

利用客の立場からは,一度よい印象をもつと,かなりの確率でリピートするという.事前の情報交換も楽になるから,というのが建前で,本音はいろんなひとにキッチンに入って欲しくない,という心理だという.だから,ジャンル別に専門家がいる.

気になる料金だが,高級店並み,が相場だ.飲み物は自宅の冷蔵庫からだし,アルコールがはいれば,タクシー代も運転代行代もかからない.だから,トータルでは「かなりお得」なのだ.

その職人は何者か?

「職人の出前」では,現在のところ,案外ベテランばかりである.ちゃんとした料理人になるには時間がかかるからだ.

しかし,今後はおそらくちがった様相になるだろう.いま,調理師学校では,即効で「一人前」にするためのカリキュラム開発が急速に進んでいる.ラーメンと寿司に関しては,「速成」を強みとした専門学校が盛況で,仕入れやマネジメントまで,後方支援のアフターサービスもついている.

有名調理師学校は,提携先にパリのレストランや有名料理人の店があり,ここに留学させて修行するプログラムもある.もちろん語学教育にも力がはいる.そのコンセプトは「実用」である.「二十代で『星』を獲得する」のは,もはや夢や幻ではなく現実の世界なのだ.

すると,将来,「無店舗ミシュラン」という分野が生まれるかも知れない.

和食は大丈夫か?

2013年に「ユネスコ無形文化遺産」にえらばれて「和食」は,あたかも世界に飛び出したようだが,現実はどうだろう?和食界の重鎮は,「このままでは文字どおり『遺産』になってしまう」と危機感をあらわにしている.「伝統」がいつのまにか「因習」になってしまう例は,世の中にあふれている.

「速成」が正しい価値観ではないにせよ,それでも「速成」できないとあきらめるなら,時間を惜しむ日本人の若者は,和食界を敬遠して西洋料理の「速成」により魅力を感じるかも知れない.

つまり,料理界はすでに「速成」という競争に突入している.これが人材確保のキーワードになるだろう.さて,日本旅館はこれにどう向き合うのだろうか?

自分たちの料理人を,食のアドバイザーとして帯同して旅をする時代がくるかもしれない.

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