資生堂の業務用品撤退の意味

今月はじめ,表題のニュースがあったが,ホテル・旅館業界の反応がいまひとつみえてこない.
月代わりするまえに,コメントしておこうとおもう.

あらためて,報道によると,資生堂が「業務用」の化粧品事業から撤退する.
具体的には,1992年(平成4年)に設立された,「資生堂アメニティグッズ」が年内に営業活動をやめる.売上高は年間数十億円だったというから,小さすぎて詳細はわからない.
これで,ホテル・旅館業界は,ポーラなど,他社への取引先転換をすすめることになる.

さて,ここで最初に注目したいのは,設立年である.
まさに,バブル経済の崩壊期である.
だから,「資生堂アメニティグッズ」側からみれば,会社設立の営業開始以来ずっと,納入先から「理不尽」な値下げ要求ばかりだったと推測する.

なぜ「理不尽」かといえば,商品に不備はないのに単純に「安くしろ」という要求であったろうからだ.
こうした要求ができる理由は,以下のようなものだろう.

老舗旅館の経営者のおおくは,若くしてそのまま家業を継ぐばあいと,いったん大手ホテルなど宿泊関連企業に就職して,しばらくして退社し家業を継ぐというパターンがある.
また,大手ホテルのばあいは,「サラリーマン」としてのホテル勤務をしていて,社内昇格によって幹部になるパターンである.

こうしてみると,経験は,家業か大手ホテルのサラリーマンかに絞られる.
いわゆる,「利益」や「経費」の本質について,恒常的に儲かっている企業がどのような判断をしているのかしらない,という「ビジネス経験」になってる.
簡単にいえば,日本を代表するメーカーや商社の出身者がいない,ということだ.

それで,「経費削減」が至上命令になるのである.
このブログで何回も書いたが,「経費削減」で業績向上を成功させ,企業の復活を果たした事例はない.
むしろ,理不尽な要求で,自社の評判を落とし,ついには「信用」をなくすことすらある.

自社製品になんの落ち度もないのに,取引先から「値下げ要求」をしつこくされたらどう思うか?
なんで,こんなひとたちの要求を飲まなければならないのか?と思うのがふつうの反応だ.
「買ってやってる」という一方的な上から目線は,互いに同等の立場である正常な取り引きではない.つまり,略奪的なのだ.

大袈裟にきこえるかもしれないが,資本主義的ではない.
だから,独占禁止法でも,有利な立場を利用して支配的な取り引きを強要することは禁止されている.それは,資本主義のルールではない,ということだ.
前資本時代の取り引きになってしまう.

今回の,資生堂の判断は,ホテル・旅館業界への決別である.
「もう知ったこっちゃない」とか,「無理やりおつき合いする道理はありません」と.
すくなくても,わたしにはそう見える.
残念だが,これに一方のホテル・旅館業界は気づいているのだろうか?と問えば,「否」であろう.

それが,前述した「ビジネス経験」のなさが原因だとおもうのだ.
そして,外国人観光客のおかげで単価も稼働も上昇したが,経営の意図として達成したものとはおもえないことにつながる.

お客様がつかうシャンプーなどを,とにかく安く仕入れたい,という発想は,裏返せば,お客様へのサービス水準も安くて(チープで)いい,ということに等しい.
もっと満足度を高めて,もっと利用頻度をあげて,もっと単価を上昇させたい,とかんがえるなら,もっといいシャンプーはないのか?になるはずではないか.

何度も書くが,損益計算書のとおりに世の中はなり立っていない.
損益計算書は,ただの「計算書」である.
だから,売上-経費=利益 は計算式であって,実際は,
経費の支払⇒売上の入金⇒キャッシュの増減 である.

すべて,経費の支払いからビジネスははじまる.
だから,どんなものを「買う」のか?は,ビジネスの結果に影響するのは当然である.
「安いものがいい」では,ビジネスは成長しない.
自社の目的にきっちりかなったものだけを適正価格で買う,これがビジネスである.

単純だが,上述の重要さがビジネス経験を積まないと理解できない.
だからこそ,理不尽な要求ができるのだ.

売上高1兆円を突破した資生堂の業績は,いま「絶好調」である.
一方のホテル・旅館業界の業績は,果たして「絶好調」といえるのか?

「なぁに,資生堂なんかなくても他社があるさ」と,どんなにうそぶいても,見捨てられたのはどちらかはあきらかである.
こうして,一切の反省なく他社にも理不尽な要求をつづければ,そのうち取引先がなくなって,とうとう独占的な一社の支配下に置かれてしまうかもしれない.

もっといいものを,ちゃんとした値段で買いたい.
そういう業界になってほしいものだ.

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