「会社法」には目的の明記がない

社外取締役を「義務」化する、という会社法改正案が発表された。

その会社法にも、前身の商法にも、法の目的の記述がなく、第1条に「趣旨」、とある。
念のため、下記がその条文である。

「会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」

だから、会社のことは「会社法」でただしい。
しかし、会社にはいわゆる「ステークホルダー」と呼ぶ「関係者」が多数いて、その立場はそれぞれことなる。

所有者であって投資家でもある株主、経営者である取締役や執行役員、それを監査する監査役や監査人、社内ではたらく従業員も正社員や非正規のひとがいて、仕入れの取引先、そして、唯一利用してお金を支払ってくれる購買客などのことをいう。
それぞれの立場がちがうから、それぞれの「利害」がちがうのは当然でもある。

今回の「改正」の主旨はなにか?
たびかさなる企業不祥事、ということだろう。
しかしこれは、前回平成26年の改正(施行は翌年)で「監査役会」の設置がされたから、さらなる積み重ねになる。
すなわち、「屋上屋を架す」になっている。

監査役会と監査役が、不正をただす監視ができないのはなぜか?
頻繁には開催されない取締役会に「しか」出席しない、社外取締役に、いったいなにができるのか?
「社外」ではない、社内の取締役の立場からすれば、いかに「通す」か?だけに興味がうつらないのか?

数々の基本的な疑問に、法制審議会の会社法制部会はこたえているとはおもえない。
部会メンバーは、ぱっと見ご立派な肩書きがならんでいるが、ビジネス経験者が少数派になっていることが注目にあたいするし、行政官僚自身がメンバーになっている。

おそらく、深遠なる「法学論」が語られたことだろう。
社外取締役が義務化されたり、人数がふえると、不祥事は減る、という法則は成り立つのか?
これは、因果関係のことである。
監査役をふやせば不祥事は減る、という法則が法理論的に当然とかんがえたのが、おおハズレした。

原「因」から結「果」になるから、「因果」関係というのは、小学校の国語で「5」を当然とした彼らにはあたりまえすぎるのだろうが、知識としてしっているだけで、実務としてしっているわけではない。

学校を卒業して、大学院から大学教授になったひとも、もっと優秀な成績で官僚になったひとも、傲慢こそが売りだから、職場で「因果関係」をかんがえる経験はないだろう。
その反省が微塵もないのが、学識経験者の学識であるし、無能な官僚の思考パターンである。

たとえば、文部科学省という学校の成績と国家公務員試験の成績が一番悪いほうからかぞえるひとが入省するということが慣例になっている役所が、小学生にむかって「あさごはんを食べると成績がよくなる」から、「あさごはんを食べよう」というキャンペーンをやった。
統計をとったら、成績のよい子はあさごはんを食べていたからである。

これはふつう「相関関係」といって、成績のよい子の特性を説明するのにはよいが、けっして「因果関係」ではないから、統計学の教科書ではやってはいけないと特筆注意されることである。
成績が悪かった官僚だから間違えたのではなく、成績のもっとよい官僚は、よりもっともらしい「相関関係」を「因果関係」と強弁してはばからない。

それが、本件の会社法改正案になっている。

目的のない法律が、目的が不明の条文をかんがえだす。
ステークホルダーという主語をわすれて、会社のことをぜんぶ決めようとするからこうなる。
たくさんの「主語」があるから、その主語ごとに決めごとをつくらなければ、誰のなにが対象なのかわからなくなる。

それで、監査役がダメなら社外取締役ということになったのだろう。
すると、この法律は、論理的に破たんしている。
小学生の作文なら、先生に主語をちゃんとかきなさない、と添削されることまちがいない。
「法律」のまえに、「文学」としても成立していない。

ダメな取締役を選んで、その結果、会社がダメになったら損は株主が負うことになっている。
このひとなら大丈夫、という情報を、株主はどうやって得ることができるのか?
残念だが、そんなものはないだろう。

であれば、取締役には、在任中と退任後も何年間か、大量の自社株式を購入・保持させればよい。
売買禁止期間は、新入社員にも責任をある意味で退任後30年ほどが望ましい。
それが、経営者の経営責任なのだ。

これが、因果応報をもって縛る方法である。
かつて社長として東芝再建にあたった土光敏夫氏は、紙切れ同然にまでなった東芝株を大量定期購入していた。
みずからの決心と覚悟である。

それで、退任後、株価は数倍の価値をつけたから、はからずも大資産を保有した。
さいきんの自動車会社や官製ファンドの高額報酬が、世間のやっかみを受けているが、土光氏はやっかまれたどころか尊敬された。

経済にはちゃんと「経済原則」がはたらくようにする。
これこそが、要諦なのである。

さて、本日、2018年12月30日0時から、「TPP」が発効した。
あたらしい経済の時代のお正月である。

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