信じる「理論」があるなら

子どもは自分が好きなはなしを、何度でもききたがる。
物語の読み手である親が飽きてしまうが、そこは親心でグッとがまんして何度もおなじはなしをしてあげるものだ。

おとなになると、いろんな本や情報をえて、それぞれに好みができあがる。
それで、自分が好きなかんがえ方がだんだんと自覚できるようになる。
だからこそ、若いうちにいろいろな方向のものをそれこそランダムに経験することが重要になる。

ただし、これには「育ち」という基盤があって、両親や親戚、ご近所などとの生活のなかで、価値感というものが埋めこまれていくのが最初の経験になる。
英国では「保守」の思想、米国では「自由」の思想がそれだ。

わが国ではどうなのか?
「他人に迷惑をかけない」思想になったとおもう。

これは、英国の「保守」でもなく、米国の「自由」でもない。
「他人に迷惑をかけなければなにをしてもいい」という思想は、けっして米国の「自由」思想ではない。
米国の「自由」には、他人から命令されない、つまり、自分のことは自分できめる、という意味があるからだ。

いま、職場での不適切な動画が問題になっているが、不適切なことをしでかした彼らは、とうとうなにが「他人の迷惑になるのか?」という基準まで喪失してしまった。

彼らの「育ち」が、どうやらまちがっていたのだろう。
つまり、彼らの周辺にいたおとなたちの「育て方」のまちがいがあらわれたのである。

だから、本人たちには刑事罰が、周囲のおとな、端的には両親に損害賠償請求がされるのは、しごく当然ということになる。

ところが、これらの事象には、わが国の価値感がとっくに溶け出したことが「育ち」の問題になったのだとかんがえられるから、けっして特異な事件ではない。

つまり、職場にスマホなどの持ち込みを禁止する規則をつくったところで、防止策にはならないのである。
べつに、影像をネットにアップしなくてもよい。

もちろん、しかけた影像をアップすることが目的だともいえるのだが、価値感が溶け出したのだから、愉快なおもいはそこで終了してもよい。
行為自体の発散か収束かのちがいだけになる。

とうとう、会社が従業員の仕事ぶりを撮影して監視しないと、なにをしでかすかわからない状況になった。

これを、「サボタージュ」といわずしてなんというのか?
日本語の「サボる」ではなく、原義の「Sabotage」のことである。
むかしは、労働争議での戦術だった。
いまこの国では、価値感の崩壊から自然発生しているのだ。

一時代を区切るとき、だいたい30年を単位とする。
ちょうどよいことに、平成時代が一時代にあたる。
その30年前は、昭和34年で、さらにその30年前は昭和4年。

不適切なことをしでかしているのが、だいたいいま18歳くらいだから、この子たちがうまれたのは平成12年(2000年)だ。
そのとき親が30歳なら、昭和45年(1970年)うまれ。
そのまた親も30歳で親になったなら、昭和15年(1940年)うまれである。

典型的「戦後」がみえてくる。
この祖父・祖母が30歳のときまでが高度成長期で、40歳から50歳という時期が、バブル経済の絶頂だ。
その子の世代は、バブル入社期にあたる。

なんという時代の移り変わりだろうか。
そして、いま、平成がおわるとき、私たちは平成という時代をきちんと説明できるのか?
そうしたなか、野口悠紀夫『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)がでた。

野口先生は政権の御用学者ではなく、むしろ正反対の批判をしているが、しごくまっとうな説明を展開しているこの国では数少ない論客のひとりだ。

平成が終わってしまう前に、なにが問題なのか?という根本に気づけなければ、つぎの時代を生き抜けやしない。

世界も、周辺各国も、じつにドラスティックな変化をとげているのに、わが国だけが、30年以上前の「戦後昭和の栄光」にすがりついて、かたくなに変化を拒否している。
しかも、政府に依存して、という条件までもくっついた。

なにをもって根幹の価値とするのか?
という、おそろしく深い問いのこたえが求められているのに、目先の「利益」ばかりを気にするのはどうかしている。

「価値」がきまらなければ、実務はうごかない。
「価値」をきめないで、実務をうごかすから生産性があがらない。

ソ連末期、投入より産出される価値の方がすくなくなった。
ありえないことが起きたのである。
信じる理論がまちがっていた。

しかし、平成時代をつうじてわが国は、とうとう信じる理論すらみつけられずにおわろうとしている。
これが、個別企業にまで、もとめられることになっている。

今日は、建国記念の日。
あらためて、厳しい現実をしる。

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