量り売りの復活

量り売りの「格安」の焼酎がある.全国4,000カ所で販売しているというから,利用者もおおいだろう.
焼酎は大きく三種類,甲類と乙類,混和に分類できる.例によって,この分類も「酒税法」による.
甲類は「連続式蒸留法」という工業的な方式で,伝統製法の「単式蒸留法」が乙類になる.混和は,文字どおり甲類と乙類のブレンドである.それぞれに特徴があるが,「安い」のは甲類と混和で,「本格焼酎」である乙類は有名銘柄になると高級ウイスキー同様の値段がつく.
ここでいう「格安」とは,乙類なのに,という意味だ.

原材料が麦なら麦焼酎,芋なら芋焼酎なのはあたりまえだが,それぞれを保管する容器にこだわると味がかわる.この「格安」焼酎は,麦はオーク樽に,芋は焼き物の瓶にはいっている.だから,麦はほのかに木の色がついて黄色く,樽の香りがする.芋は,陶器のもつ遠赤外線効果なのだろうか,たいへんマイルドである.つまり,おもった以上に高品質なのだ.

メーカーのHPをみたら,「格安」の理由は,この樽と瓶だった.ふつうに販売されているように,一本ずつボトルに詰める必要がないからラベルの印刷も手間もかからない.それで「格安」になるという.そして,消費者は専用ボトルを初回に購入する必要があるが,そう高価なものではない.逆にいえば,余分なコストを,品質に投じることができる.

旅館の飲み物提供のかたち

たいがいの不振の宿は,夕食でお客にいかに酒類を飲ませるかで汲汲としている.土地や料理との相性を無視して,それ飲め,とばかりに注文をとりにくる.こうした宿ほど,メニューにある銘柄にも工夫がない.仕入れの酒屋が売りたい銘柄だから、都会のよくある居酒屋とかわらない.
そうかとおもうと,県外の有名銘柄・高級酒ばかりが目立つところもある.さも,この県には「なにもない」と言いたいようだが,そうではあるまい.残念ながら,いろんな理由で従業員教育ができないので,くわしいお客に質問されたら面倒だからだ.そうやって,くわしいお客をリピートさせないことをする.

ある宿で,お酒が大好き,というパートさんがいた.そこで,社長に相談して,このパートさんを口説いて,利き酒士の資格を取得してもらった.もちろん,時給アップも条件だ.それで,仕入れの品定めもやってもらうと,みるみるうちに夕食のレベルがあがった.調理場が反応して,酒に負けない料理を工夫したからだ.
意図しない,うれしい「化学反応」がおきることがある.しばらくすると,他のパートさんもうずうずしだす.好きな分野で責任をもったら,以前とはくらべものにならないほど楽しそうに仕事をするパートさんの変化に,周辺が刺激をうけるからだ.

この宿は,パートさんの指導によって,食事処の目立つ場所に県内酒蔵のとっておきをならべた.県外では,よほどでなければ入手困難という品ぞろえである.当初,この品ぞろえにかかわる投資に腰が引けたのは社長だった.売れなくて「酢」になったらどうする?というわけだ.

「乾杯用のおすすめ」とか,「○○にピッタリ」とかいう手書きのポップも用意して,迎えた初日は,大盛況だった.
ここにしかない,の達成である.

今後は,樽や瓶が並んだ中から選ぶという「楽しさ」が,商品になるかも知れない.

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