BBCの李登輝独占インタビュー

日本の公共放送が意識しているのは、とうぜん英国のBBCだとおもうが、そのレベルのちがいがネットの普及でわかりやすくなった。

2014年だからもう5年もまえになるが、BBCが李登輝元台湾総統に独占インタビューしている映像が、なんだか突然ヒットした。
中国語でのインタビューだが日本語字幕もついているから、なにをはなしているのかはちゃんとわかる。

「哲人政治家」といわれ尊敬をあつめるのは、プラトン以来の憧れである。
アジアでこれに匹敵するのは、インドのガンジーとシンガポールのリー・クワンユーというひともいるけれど、生存している、という条件をあえてつければ李登輝をおいておもいつかない。

1999年(平成11年)のベストセラーになった『台湾の主張』は、司馬遼太郎の『街道を行く40 台湾紀行』にある「台湾に生まれた悲哀」を受けてかかれた「返歌」のような意味もあったかにおもう。

 

もちろん、内容的に文句はないが、わたしに衝撃的だったのは、むしろその後に出版された『武士道解題』のほうである。
21歳まで日本人だった岩里政男が、李登輝と名乗らなければならなくなった「悲哀」が、おもいきり「昇華」しているからである。

ほんらい、台湾の国民党独裁を総統直接選挙にまで変えた、自由と民主主義のひととしてもっと日本の放送局が積極的に取りあげるべき人物が、一方の大国に気をつかって無視する態度にてっすることこそ、武士道にも人道にも反している。

『台湾の主張』には、自己の体験から、学徒出陣で軍隊にはいって、敗戦して故郷の台湾に帰ったら、日本語をつかってはいけないと命令されたので、じつは中国語がたいへん不得意なのだという告白がある。

岩里政男青年はたいへん優秀であったのだが、地元台北帝国大学には入校できず京都帝国大学に入学している。
それで、学徒出陣になって大阪師団に入隊し、陸軍少尉で終戦となった。

いまの大学とちがって、旧制大学のレベルの高さはくらべようもないから、岩里政男青年がいう、むずかしいことはいまでも日本語でかんがえる、というのはうそではあるまい。

冒頭のBBCのインタビューでも、ときどきことばに詰まると英語がでてくるが、よくきいていると、あんがい日本語が中国語のなかにちらついている。

岩里政男=李登輝は、日本がうんだ哲人政治家なのである。

だから、沖縄・台湾県になって、県庁所在地は那覇のままでもいいと言い放つのは、国際政治の微妙なニュアンスとは関係なしに、岩里政男という人間にたちもどれば「当然」のことなのだろう。
あえてニュアンスを解釈すれば、沖縄・台湾県では大きすぎるから、台湾道として道庁所在地が台北を希望しているのだともとれる。

じっさい、台湾の帰属問題は、マッカーサーが曖昧な処置をしたから、ほんとうは国際法的にきまっていない。
台湾を中華民国という国が実効支配している、という状態なのだ。
だから、彼の頭の中は、台湾と中華民国は同一ではない。

むしろ、中華民国という膜のような存在をとっぱらって「台湾だけ」になってすっきりしたい。
だから、大陸がいう一つの中国なんてうけいれられるわけがない、と。

尖閣の領土問題も、日本領だといいきるのは、こんどは李登輝になって、台湾政府の役人だった経験から、漁業問題はあったが領土問題は一切なかった証言している。
沖縄の漁師が尖閣でとった魚を那覇よりもちかい台湾の基隆にもちこんで、そこに漁業基地もあったということだ。

いまどきの日本人は、台湾が日本領だといえば、おどろくほどになってしまったが、台湾は中国領だという根拠より、よほど強固な理由がある。

南太平洋を支配する「南洋庁」が設置されていたパラオでは、日本の委任統治からアメリカの信託統治にきりかわっている。
日本が委任されたのは「国際連盟」からで、連盟脱退後も「委任」されている。
アメリカが信託されたのは「国際連合」からである。

そのパラオが独立したとき、最初の国政選挙もおこなわれ、最初の国会で「日本になりたい」が全会一致で決議され、直接選挙でえらばれた大統領がこれに署名した。
日本国政府はこの決議にたいして、東アジアの国々に「領土的野心はありません」といいたいがために、これを拒否している。

パラオの民主主義を無視する、日本国とはなにものか?

李登輝からみれば、なんの反省もしていない薄っぺらな日本が透けてみえたことだろう。
戦前の日本なら、国を挙げて悩んだはずである。
現代の日本がそこまで気をつかう国が、台湾の独立を脅かす独裁国家だし、このニュースを覚えている国民すら皆無だ。

そして、その独裁国家にかしずくのが、わが公共放送をはじめとするマスコミであるから、はなしにならない。
世界を支配した英国がすばらしいとはいわないが、独立自尊の精神すらうしなえば、だれからの尊敬もえられない。

李登輝の長命は、日本人がよろこぶべきことである。

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