国産旅客機開発!何が経産省を?

三菱重工が「MRJ」でコケて倒産しかけたのは、1兆円の投資にリターンがぜんぜんなかったからだけど、こんどは「複数社でやればいい!」という、より難易度を上げてでもやるというのは、経産省の役人にどんな動機があってやってくるものなのか?

経産省は、『悪霊』かなにかに取り憑かれている?

本稿では、この「悪霊」についての分析を試みたい。

さて、このような具体的事案のかんがえ方の整理には、いったん抽象化することがセオリーとなる。
「具体 ↔︎ 抽象」の相互で何度か思考を行き来すると、だんだんとその本質が見えてくるものなのである。

しかし、ただ抽象的にかんがえるといっても、きっかけとなる手がかりがないと、どこからどうかんがえればよいかがわからない。

そこで、わたしはこんなときには、小室直樹やら山本七平やらの考察を参考にしたくなるのである。

今回は、さいきん復刻された小室直樹の名著(彼の著作は全部が名著)『危機の構造』(初版は、昭和51年:1976年)を底本にして紐解くことにする。

ついでに念のため、「構造」という見方をするのは、レヴィ=ストロースの『野生の思考』を嚆矢としてできた、「構造主義」によるものだ。

さて、『危機の構造』のなかでも、日本社会における「原理」と「構造」を解析しているのが第二章である。

なお、出版時の大問題は、「ロッキード事件」(昭和51年:1976年)で、前総理の田中角栄が逮捕された時期(三木武夫内閣)にあたるのでまずはこの事件を扱いつつ、その前(昭和47年:1972年)に全国民を震撼させた浅間山荘事件を起こした「連合赤軍」という10名ほどのグループの組織に関して「構造解析」を試みるのである。

もちろん、わが国における近代史上最大の問題は、第二次世界大戦の参戦であり、敗戦であるから、戦後の大繁栄の絶頂期に起きた連合赤軍事件と、戦前・戦中の軍についての分析にも余念がなく、当時の軍事官僚と戦後の経済官僚の類似性が、なんと連合赤軍の類似性とともに「三重」になるのである。

そうやって、とうとう、ビジネス・エリートの世界にも、同様の構造を見出すのが、小室直樹をして傑作と名高い本著作の価値である。

ここから、わが国民性が作りだす「組織」の共通した特性があぶり出される(P.41)。

「社会の機能的要請は、多くの機能集団により分担され、しかもこの昨日集団は複雑多様であり、独自のメカニズムで作動するから、機能的紛争の生起は不可避である。しかも、社会全体における機能的要請の達成は、これら多くの機能集団間の分業と協働によりはじめてなされる。ゆえに、機能的紛争を未解決のまま放置すれば、社会過程の進行は阻止され、所期の結果は達成され得ない。」

当然だが、以上から、機能的紛争すなわち職場間などのセクショナリズムに代表される対立が、どんな組織でも、あるいは企業にもみられるのは、機能集団として「日常」であるので、ここに調整のための「組織マネジメント」が必要になるのである。

しかし、わが国では、「組織マネジメント」の方法論すら体系的に教えることを、一部を除いてしていない。
そのメソッドは、戦後米軍から製造業に移植され普及している「MTP(Management Training Program)」である。

小室は、次の3点をもって、おそるべき予定調和説の存在を指摘している(P.45)。

・自分たちこそ国民から選ばれたエリートであり、日本の運命は自分たちの努力にかかっている。
・この努力は、所与の特定した技術の発揮においてなされる。
・したがって、この所与・特定技術の発揮においてのみ、全身全霊を打ち込めば、その他の事情は自動的にうまくゆき、日本は安泰となる。

続けて、「このような人びとは、分業のパーツとしてみる限り最高の部品(パーツ)である。しかし、ひとたび全体のリーダーとなるや、最悪のリーダーとなる。けだし彼らは、限定された分業の遂行者としての視座しか持ちあわせないため、全体的コンテクストにおいて、すべてのフィードバックを総合することはできないから、リーダーとしては最悪のリーダとなる。」

こんな事情から、「一般的批判拒否症」を発症する。

これはいま国会で流行の、「答弁拒否」という状況になって現れている。
行政府の大臣といえども、国会の場における議員からの質問には、「答弁する義務」があるのは、議員が選挙を通じた「代議士」だからである。

これをどんな了見で拒否しているのか?と問えば、「一般的批判拒否症」を発症しているからだと「診断」できる。

そんなわけで、一般的批判拒否症を発症すると、「各機能集団間のディス・コミュニケーション」となって、結局は、「所期の目的が達成され得ない。」(P.51)ことになるのである。

そんなわけで、「MRJの失敗」があったのに、へんな「エリート官僚」の義務感が「悪霊」のような振る舞いをさせているが、上のメカニズムが作動してかならず失敗するのである。

おそるべし、官僚思考、おそるべし小室直樹!

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