客用トイレをだれが清掃するのか?

外国人がいちように驚くのが,日本の小学校における給食と終業時の清掃であるという.
じっさい,ポーランドでは,給食はおろか,生徒がいっせいに昼食をとる習慣すらないし,教室の清掃は,清掃業者が請け負っているのが世界的には一般的だ.
日本の小学校を取材した,サウジアラビアのテレビ番組をきっかけに,彼の国では「日本方式」が急速に普及しているという.これは,サウジアラビア王国にかぎった話ではない.
「教育」の範囲を,生活習慣にまでひろげれば,日本方式の意味ははっきりしている.

概ね,日本では高等学校まで自分たちで教室やトイレなど校舎や校庭の清掃をするから,おとなになって,専門学校や大学に進学すると,とたんに清掃は外国式に専門業者の仕事になる.
これは企業でも一般的である.

「サービス業」という業種でかんがえると,自社の社員以下がおこなうのと,専門業者に委託するのと,各業態によってちがう.
比較的店舗面積が小さい飲食店などでは,自社の従業員が清掃している.
一方で,大型ホテルでは,業務委託していることだろう.
この中間が,旅館である.

あんがい「おもてなし」をつよく打ち出しているホテルや旅館で,ロビーや客用トイレを業務委託していることはおおい.ばあいによっては,従業員スペースもトイレをふくめ清掃委託している.
「経費」を「単価」でかんがえれば,接客の専門家や商品企画・管理,あるいは営業をプロの従業員が,高単価で業務に従事しているのだから,単純作業は外部の専門業者にまかせることで,単価じたいも安くすむから,合理的であるし,ある意味,そんな業務で有能な従業員の時間をムダにしたくない,というかんがえもあるだろう.

しかし,本来の「おもてなし」という「思想」からかんがえれば,矛盾していないか?

長野県のひとたちが憧れる会社のひとつに,「伊那食品」がある.
この会社は,「寒天」の世界的メーカーで,世界シェアは70%ほどだとおもう.また,前年比で40数年間連続の売上高増加という記録もあるから,ご存じのむきもおおいだろう.

一口に「寒天」というが,なかなかの奥深さで,「寒天」というものの物質特性をかなり研究している.
創業時は和菓子の材料,いまは化粧品や医薬品の分野にまで応用がひろがっている.
その成果が,売上高増の連続記録になったのだが,会社の目的が売上高増加ではないことにも注目をあつめた.それは,社員とお客さまの幸せの追求なのだ.

だから,社員には10時と3時のお茶の時間がある.定年退職すると,子会社に就職して,本社工場内の花壇や農園の仕事がある.その会社にも定年があるから,社員たちは二度退職金がもらえる.
本社工場内の花壇は,美しく整備されていて,工場見学のお客の目をほほえませ,農園の収穫物は「直売」されている.これを近所のひとがこぞって買いに来る.

広大な本社工場の敷地に通勤する社員たちは「右折」をしない.遠回りしてでも「左折」で入場する.「右折」は,後続車の迷惑になるからだという.さらに,朝夕は,工場内の通路を集団で登下校している子どもたちのすがたがある.その先には工場と学校をつなぐ歩道橋がみえる.通学路の敷地内ショートカットを認めただけでなく,歩道橋も会社がつくったという.国道をまたぐ認可を得るのに苦労したというから,本物である.

工場内には見学者のためのレストランがあって,さまざまな寒天料理がたのしめる.
レジをすませて土産物売り場にあるトイレに行った.ふと,違和感を感じたのだが,それがなにかは時間差があってわかった.
トイレ内の水栓や設備は,けっして新しいのではない.しかし,なにか変なのだ.
それは,今日,ここを使うのはわたしが最初か?というほど,どこを見渡しても,水滴の一つもないのだ.
家内をまつために,土産物をながめていたら,目の横を人影が通るのを感じて,あわててふりかえると,そこに家内が立っていた.

いま,女子トイレにだれか入ったかときいたら,誰もこなかったという.
それで疑問がとけた.レジ係のひとが,手があけばトイレの清掃をしているのだ.すると,男子トイレから彼女が出てくるやすぐに女子トイレに入った.
家内も,女子トイレに水の一滴もなかったと驚いていた.

こんな会社みたことない.
それで,たっぷり寒天のお土産を買って,駐車場にむかうと,100mは向こうの通路からなにか叫んでいるひとがいる.
足下から頭まで,すべてが白装束なので,工場のひとだろう.
なにごとかとおもって耳に手をやったら,「ありがとうございました.お気を付けて!」と言っていた.
それで,寒天でいっぱいの荷物のふくろをもちかえて,おおきく手を振った.
なにか,えらいひとになったようで,ここにきてよかったと幸せになれた.

すごい会社があるものだ.

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