曲げわっぱの弁当箱

かみさんが37年勤めた会社を雇用延長せずにキッパリ定年退職して、失業給付を得るのにハローワークへ出頭している。
いよいよパソコンを使っての、医療翻訳家をめざすことになったのだけど、パソコンの根本的な知識が曖昧なので、いちいち操作方法を質問してくる。

そこで、ハローワークで、パソコン教室を紹介して貰えないのか相談するようにしたら、あったのである。

ただし、人数制限があって、12人までという。
応募数がいつも多いので、まずはダメ元で申込みをしたら、補欠にエントリーされて、その後に辞退者が出たので晴れて参加できることになった。

しかして、一回6時間にわたる授業が平日毎日、合計240時間というコースだったので、教室の最寄り駅まで定期を買うことになったのである。

それで、昼食のために、弁当箱が欲しい、も加わった。

現役のとき、とくだん会社に弁当を持っていくことがなかったので、タッパーはあるが、弁当箱と呼べるものはわが家になかったのだ。

もらった商品券があるし、インフレの時代だからモノに変えておこう、という理屈もつけて、横浜駅のデパートへと向かった。

やはり目につくのは、秋田杉の「曲げわっぱ」である。

大きく分けて、三種類に整理できる。
・木肌がそのままの無塗装
・漆塗り
・ウレタン塗装

塗装か無塗装か?がはじめの分岐点だが、かんたんにいえば、中性洗剤を使えるかそうでないか?のちがいとなる。

元来、曲げわっぱには、ご飯だけを入れることが想定されていて、おかずは別なのである。
よって、中性洗剤をつかう必要はないし、江戸時代以前の世の中に、中性洗剤は存在しなかった。

「お櫃」の効果が見直されて、また、炊飯器も保温機能を短い時間しか設定できなくなってきたから、いよいよ「お櫃」が便利器具になってきている。
これは、コメの品種改良で、「うまさ」が追及されているのと合致するのである。

つまり、お櫃はご飯の保存に適している。
杉材の水分調整機能と、殺菌作用とで、冷めたご飯でもおいしさを保つのだ。

要は、携帯用の「お櫃」が、曲げわっぱ弁当箱なのである。

だから、無塗装のものが、本来の姿となるのだが、小食なかみさんは、ご飯だけを入れる弁当箱を想定していなかった。
そこで、ウレタン塗装に、漆で絵が描かれかつひょうたん型という、いかにも女性好みな弁当箱を購入したのである。

本体は秋田製の曲げわっぱで、塗りは、日光の職人さんが施しているという。

なお、ご飯の湿度調製はできないが、漆には殺菌作用がある。
湿度がないと乾かず、乾くとかぶれなくなるのも、不思議な漆は、英語で、「japan」だった。

さてそれで、、箸箱をどうするのか?となって、京都の竹細工、公長齋小菅の携帯用竹箸をみつけた。
さらに、どうやってこれらを包むのか?となって、弁当箱売り場の通路をはさんで反対側にある、風呂敷コーナーに案内された。

小さめの丁度いいものが用意されていて、一枚を購入したが、後日追加でもう一枚買いに出かけた。
その際、わたしにも弁当箱を買えというのである。

しかし、わたしには、とくに弁当を持ち歩く必要がない。

ぜんぜん積極的でないのに、売り場にだけは連れて行かれた。
どうせ買うなら、柴田慶信商店の直営店がいいかな?と思っていたからでもある。
こちらのは、無塗装だけしかないのだ。

しかし、秋田には有名な店はたくさんある。
じつは、曲げわっぱ業界には、競争があるのだ。

かみさんが気になっていたのは、「栗久(くりきゅう)」さんのものだった。
目についたのが、「グッドデザイン賞」のシールだった。

こちらは、二段重ねで、下段は無塗装のご飯用、下段の蓋を兼ねた上段は、下段の蓋に当たる面は無塗装で、それ以外は木肌を活かしたウレタン塗装となっている。

つまり、下段はお櫃の効果はそのままに、上段は油物が入っても中性洗剤で洗っても大丈夫なおかず入れなのだ。
販売員の女性は、下段に入れるご飯は、なるべく薄めに敷きつめるのがおいしさを保つコツだと教えてくれた。

つかいはじめの二、三度ばかりは、水で湿らしてからご飯をいれて、食べ終わってもそのまま家に持ち帰ってから洗うのがよい、と。
そのさい、洗剤をつかわないスポンジかタワシで洗って、それから消毒を兼ねて熱湯を入れて熱を渡したら、お湯は棄て、放置・乾燥させれば、よく乾くとも。

無塗装は手入れが大変だといわれているが、ご飯だけを入れるならそんなに難しいものではないし、ほぼ一生つかえるのは、伝統的的工芸品のゆえでもある。
修理もできるのは、工芸士がいるからだ。

結局、かみさんと見た目は揃って、曲げわっぱ弁当箱をつかうことになった。
おなじ携帯用竹箸でも、留め具の色をちがうものにしたし、小ぶりの風呂敷も二枚買った。

こないだ復活した、炊飯用土鍋の隣に置きっぱなしの、「お櫃」も復活させてみたら、やっぱりちがうのを再発見して、しばらくの間、宝の持ち腐れだったのを恥じるばかりである。

わが家の「お櫃」は、「桶」タイプでタガは銅でできている。
弛んでいないか心配したが、大丈夫だったのでホッとした。
裏の足元に、「平成13年12月9日購入」とサインペンで書いておいたのも見つけた。
たしか、東急ハンズの特売で9800円だったと記憶している。

栗久さんにも、曲げわっぱのお櫃はあるが、三合の用量で約5万円する。

かつての庶民の生活道具が、庶民の生活から遠ざかっているような気がするが、ご飯炊き用の土鍋と併せても、いまどきの家電量販店にある電気炊飯器とかわらない値段なのだ。

製品寿命をかんがえたら、だんぜんお得なのはどちらかはかんたんに判断できるのに、と思った。

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