温泉を殺す公共の温泉

温泉宿の温泉しらず。

よくいわれる皮肉である。
だけれども、図星でもあるから耳が痛い向きもいるだろう。
耳が痛いのは、図星をいわれたストレスがそうさせる。
だから、気がつかないひとには何もストレスを与えない。

これは、天然資源でもある「自慢の温泉」なのに、泉質もなにも研究しないで放置している状態をいう。
この温泉の特徴はなんですか?と質問されて、「美人の湯です」と答えるなら、どうして美人の湯なのかの根拠ぐらい識っておけといいたくなることがある。

ちゃんとした温泉ならば、更衣室あたりに必ず、「温泉成分表」やら「加水」や「加温」の有無を表示している。
けれども、温泉成分表の見方とか、それがどんな意味なのかを説明した掲示がひとつもないのも特徴になっている。

じっさいに、主人や女将あるいは、「湯守」がどこまで自家の温泉についての知識があるのか?

「湯守」の代表的な仕事は、温度管理である。
天然温泉なら、こまめに温度管理をしないと、「熱くて入れない」とか「ぬるくて入れない」といったクレームになる。
小さな宿なら、バルブの開け閉め具合でこれを調整する。

バルブのわずかな動きで温度がかわるから、専門家としての「湯守」が仕事として成立するのである。
客の到着時間にあわせて、ぴったりの温度にするには、経験だけでなく統計データの処理ということも業務のうちにある。緻密なノートが彼らの「宝」なのだ。

いまの風呂の温度、いまの源泉の温度、いまの気温と予報、露天なら風速や風向き、そしてあわせたい時刻までの時間があって、いわゆる「多変量解析」をする。
それでもって、はじめてバルブをさわるのだ。あとは、「勘」である。

温浴施設となると、機械がこれをやってくれる。
しかし、どんな温度設定にするのかは、あんがい経営方針で決めるのである。
「ぬるい」と客が浴槽に滞留して、新規入浴客があぶれてしまう。

すると、客一人の動きを「粒」に見立てれば、「流体力学」のモデルのようなイメージなって、もっともスムーズなコントロールができる。
けれども、あんまり温度調節だけに依存すると、常連客が嫌がるから、全体の流れを読むことが重要なのである。

「民営の強み」はここにある。

だが、この国はソ連型の社会主義国なので、「官営」の温泉施設がたくさんある。
官営の特徴は、利益をださない工夫を「建前」に、儲けたいという「本音」を「隠す」ことにある。

むかしは、「民業圧迫」といって、さまざまな業界が「抵抗」した。
その大本が、経団連だったのだけれど、すっかりソ連型の「補助金欲しさ」に目がくらんで、「乞食の総本山」に転落した。
そんなわけで、商工会議所とか青年会議所とか、さまざまな業界団体も、みんなで乞食になる努力をしたのである。

利益をだしていないから、民業圧迫ではない、という言い分は、施設従業員(=役人が支配人とかをしている)の給料が高額だからである。でも、施設管理者となるひとたちの委託料をケチるから、赤字にならないようにしている。

それでも赤字になるのは、施設に魅力がないからである。

建設費には異様なおカネをかけられるのは、その自治体の上位団体から補助金がでるからで、「もらわないと損をする」という、やっぱり「乞食の発想」をするからである。
立派な建物=稼げる施設、にはならない。

むしろ、建設費をたいそうかける分、ランニングコストも跳ね上がるようにできている。
だから、建物とうってちがって、内部の貧困がかえって目立つのである。
それで、仕方がないから、役所がつくった意味不明のポスターをあちこちの壁に貼って、高価な内装も台無しにしてしまう。

このセンスの無さは、あんがい「景観」を台無しにする感覚と同じだから、できるだけこの手の施設は使わない努力をしている。
しかし、最近は出自を明かさない、広義の「偽装」が行われていて、公共の温泉とは気づかせない施設がある。それで、うっかり利用してしまうのだ。

もちろん、入口周りで気づくのだが、はるばるやって来た勢いで、そのまま入館券を購入すれば、まことに役所の窓口と同じなのである。

温泉好きにとって、最悪なのが「循環式」である。

浴室などにある「この温泉の特徴とその説明」によれば、日量600立米を超える豊富な湧出量を自慢しているはずなのに、湯船から湯が溢れていないなら循環式である。
そっと湯の匂いを嗅げば、塩素臭がする。

「事故防止」が最優先なのだ。

なので、浴室の清掃もおろそかになる。
消毒しているから、安心だ。

有限の天然資源である温泉をこんな扱いにしておきながら、必ずどこかに「サステイナブル」をうたったポスターを館内にみつけることができる。
こうした分裂症状を、ぜんぜん分裂と思わないのは、ほんものの病気である。

全国の自治体に、直営の天然温泉施設は作らせても運営させてもならない。
ゆえに、いまある施設は、早急に民間払い下げを実施させ、入札候補者がいないなら閉鎖すべきである。

同じ地域にある民営の温泉施設では、「あそこは汚いし湯もよくないから行かない」と、常連さんが湯船の中で問わず語りに話してくれた。

正解である。

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