「年収の壁」のことである。
現実のベルリンの壁は、1961年に作り出されて、1989年11月9日まであった。
高さにして3mもの壁で東・西ベルリンを分断していた。
総延長は、なんと、155Kmもあった。
作ったのは東ドイツ(正式には国家ではなくて、「東ドイツ社会主義統一党=ソ連共産党の子会社」)で、一般に、東ベルリンの住民が西ベルリンに亡命するため、命懸けでこの壁を越えようとた。
最近の調査では、136人の犠牲者(子供含む)が確認されている。
上で、「一般に」と書いたのは、西側から東へ壁を越えようとする者が「いなかった」からである。
この一方通行の現実を、西側の社会主義者たちは語ろうとせず、社会主義の優位性を訴えていたのが、今からしても滑稽であったが、もちろん本人たちが西から東へ向かうこともしなかった。
この点で、樺太(当時は日本領)からソ連国境を越えたのは、杉本良吉と岡田嘉子で、なんとも切ない末路が待っていたから、やっぱり、西(自由圏)から東(共産圏)に向かうのは愚の骨頂だということにおさまったのであるけれど、世にもに珍しい、日本人的生真面目さが漂う行動であった。
ちなみに、杉本は政治犯として日本官憲に追われていたので、どちらが「自由圏」なのかの区別が困難どころか、ソ連こそ自由だと信じたのに、銃殺刑になった。
岡田は女優らしく、KGBが運営するモスクワ放送で日本語番組のアナウンサー役をやって、共産主義礼賛のプロパガンダに組み込まれて、日本人の脳を汚染していた。
こうした体制を、ソルジェニーツィンは、「収容所群島」と表現した。
国家全体が収容所のようになって、国民は家畜とされ、人間的な生活ができるのは、一部の党幹部に限定された。
なので、戦後わが国の労働界が、「人間回復」を強く要求したことは、モスクワからしたら、ニヤニヤと嗤って観察していたのではないか。
7年前、ポーランド北東部をレンタカーでドライブしたとき、森の中を行く舗装路から横道の舗装も看板もない道を恐る恐る行くと、突如、宮殿のような宿泊施設に遭遇することがあったが、これが、今は一般利用できる社会主義時代の党幹部専用の保養施設だと聞いた。
どうして今も舗装も看板もないままのかわからないが、「秘密の存在の保存」だったようで、外国人でも誰でも国内ツアー会社から予約可能とのことだったけど、外国人向けとしては宣伝もしないでいるらしいから、秘密の存在になっている。
いつか泊まろうとおもっていたら、コロナが蔓延した(ことになった)。
そんなわけで、国全体の「収容所」に住まわせられることになると、人間の目線は、二次元的な平面の部分しか見えないので、それが世界だと勘違いする。
『進撃の巨人』の「壁の中の住人たち」を決してバカにできないのである。
以上を踏まえて、日本人の所得を一瞬にして高める方法を、ユーチューバーの深田萌絵女史が指摘している。
それが、「年収の壁」の撤廃なのだ。
ハイエクは、もっと単純な、「税率を10%に統一する」方法をとっくに提案している。
これに伴うメリットには、納税費用負担のゼロ化という作用もある。
むずかしい税金計算は不要になるので、優秀な税理士や企業内の経理マンを、税務から解放できることも、社会的には巨大なメリットなのである。
税理士(30万人いる)は、付加価値を生産していないからだし、企業内の経理における税務も同様だから、ずっと生産性が上がる。
「デマ太郎」こと河野太郎氏は、デジタル通貨で政治家への献金を義務化させることになったら、あたかもカネの出所が当局よって把握できるような、つまり、通貨としての匿名性をデジタル通貨には与えない、という重大な本音を漏らす「失言」をした。
まともな経済学者なら、ボコボコに非難して相当なのに、どうしたことか?
しかし、デジタルか?アナログか?の議論さえ関係ないのが、えらく複雑化した我が国の税の構造をシンプルにするだけのことなのである。
これが、「巨大な壁」なのだが、見えない壁だから21世紀になっても壊れない、我われの抱える大問題なのである。