13日の暗殺未遂から、たった二日後の、15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで予定通りはじまったのが、「共和党全国大会」である。
最終日は、18日。
ここで、トランプ氏の大統領候補「受諾」演説がある。
日本のマスコミは、顔を見せるだけで出番がない、などと世迷い言をいって、視聴者を煽動しているが、はなから出番は最終日の大トリ、「受諾演説」を盛り上げるための大会なのである。
事件後、大会の「延期?」とのはなしもあったようだが、トランプ氏からの「通常どおり」の希望があったという。
初日の目玉は、「副」大統領候補者の指名であった。
なお、アメリカ大統領選挙とは、ひとりの大統領候補への投票ではなくて、正・副大統領候補のペアをセットで投票する仕組みになっている。
なので、有権者からしたら、「Ticket」ともいうのである。
さて、副大統領候補者に指名されたのは、2年前に連邦上院議員(オハイオ州)に初当選した人物で、ときの年齢は37歳、いまは39歳(来月、満40歳になる)である。
このときの党内予備選は激戦で、本選にあたっては、トランプ氏が直接応援に入った、という。
2016年当時、彼は「反トランプ」であったが、18年には「見直し」がはじまって、20年には「反トランプだったことをトランプ氏に謝罪して」それからは、「トランプの申し子:クローン」的な存在となっている。
じつは、「自伝」である、『ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~』で無名の弁護士から一躍、ベストセラー作家になった人物だ。
このとき、31歳。
いわゆる「ラストベルト:Rust Belt:さび付いた工業地帯」出身の、白人労働者(貧困)家庭の生活実態をあらわした本で、アメリカ人もしらない話が報告されていることが、後世の「資料」としての価値もあると評されている。
「さび付いた工業地帯」とは、かつての重工業(鉄鋼と自動車)の中心地のことで、アメリカを「世界の工場」へと押し上げた地域のことである。
大西洋側北部のボストンからワシントンD.C.をとおり中西部までの地域を指す。
夢を失った白人貧困地域出身というのは、アメリカではとくにエリート層からの蔑視の対象になるというが、ほんのわずかなチャンスから、とうとう名門イエール大学から弁護士となった「エリート」でしかも、彼の妻は同級生ながらさらに優秀で、連邦最高裁長官と判事のふたりから「補助スタッフ」に選ばれている。
鼻持ちならぬ民主党のエリートたちは、とかく「学歴」をもって相手を制圧しようとする、じつはヘイト体質があるけれど、ヴァンス氏夫妻にはぐうの音も出ないと、ワシントンD.C.在住の伊藤貫氏が嬉しそうに語っている。
トランプ氏は、忠誠心と共に、選挙戦における「ラストベルト攻略」という大戦略のため、この若い人物を選んだとかんがえられる。
なぜなら、上の事情から、ラストベルトこそが、選挙の決め手となる「スィングステート:民主党と共和党に揺れ動く州」が集中しているからだ。
アメリカの大統領選挙は、州ごとの選挙人票(連邦下院議員数と上院2をあわせた数)の総取りによる集計方法なので、じつは「全米」での支持率とは別の、州ごとの情勢分析をしないといけないかなり高度な選挙戦略が要求されるものなのである。
さて、ヴァンス氏は、1年生議員(選挙で一回だけの当選)のくせして、共和党上院議員団からの「嫌われ者」だという。
いわゆる、「RINO:Republican In Name Only:見せかけの共和党員」である、ミッチ・マコーネル(ケンタッキー州)が親分の上院では、「反トランプ」が主流なのである。
しかし、下院がそうであるように、いまや「トランプ派」が主流を成す流れの中で、6年に一回の上院議員選に勝つには、トランプ氏の指示表明(endorsement)がないと落選の憂き目をみることが明確になっているので、上院もおおきく変化しているし、次回の大統領選で同時に行われる改選では、民主党の議席をトランプ派が奪還し、上院でも多数派を形成しようと狙っている。
その意味で、今回の党大会における党内主流派が、「トランプ派」になったことを証明した。
連邦上・下院銀選挙でも、RINOが生き残ることはできないだろう。
「DSをぶっ潰す!」と明言している第二次トランプ政権の鍵は、政府幹部の人事を担う連邦上院での多数をとることで、それが公約達成のための条件だからだである。
これまで共和党といえば、「お金持ちの党」というイメージがあったが、トランプ氏の支持層が一気に「労働者層」と「有色人種層」にシフトして、これを白人貧困層出身のヴァンス氏が強力に後押ししている。
ために、少し前ならあり得ない、労働組合の一部が共和党支持に回り始めているのである。
逆に、民主党から労働組合が離反しているのは、バイデン政権発足初日の「裏切り」に象徴される。
これは驚くべきことで、「金持ちのための政党」だった共和党が、このわずか6・7年で、衰退する中間層のための「庶民政党」に大変化した。
「(外国の)金持ちのためだけの政党」に大変化した自民党とは真逆なのである。
民主党のバイデンを激推しした、カナダとの石油パイプライン会社の労組が、「パイプライン運用中止の大統領令」によって、万人単位の失業者をだしたからである。
この労組委員長は、「支持政党を間違えた」と声明をだしたが、あとの祭りである。
だがいまは当然に、トランプ派を推しているのである。
日本でいえば、労組が自民党支持になるなんて「生易しい」程度のことではなく、もっとドラスティックな変化が起きているのである。
社会主義的な政策ではない、労働者の生活を改善するための「再教育」が主柱になっていて、これが支持されているのだ。
この意味で、『ヒルビリー・エレジー』の「解説」はいただけない。
日本的社会主義に毒された人物が、批判的に「解説」しているからである。
この解説者は、「本文」を読んでいないのではないか?と疑う。
ときに、第二次トランプ政権が発足しても、任期は4年しかない。
なので、今回の「副大統領候補」の意味とは、後継の大統領候補だという意味でもある。
そうなると、ヴァンス氏は44歳の大統領となって、あのケネディ大統領(43歳で就任)につぐ若き指導者となる可能性もあるのだ。
トランプ氏とそのスタッフによる、深遠なる「仕込み」が行われている。