引きこもるおとなたち

年末をむかえて、どちらさまも来年度の町内会・自治会の新メンバーをきめる次期になってきた。
むかしは、町内会・自治会に加入するのは「あたりまえ」だったけど、いまは「任意」という名目が実質になって、歯抜け状態になっている。

各組の班長も、むかしは番地順に総当たりだったけど、高齢化もあって拒否されるから、なんだか早く順番がまわってくるようになった。
それで、班長から組長や役員をえらぶので、地元の「主」がいるなら固定的だが、いまどきの集合住宅だと難儀する。

古い町はとにかくなんでも、「主」が仕切るのがしきたりだ。
これはこれで、新規の住人がいじめられる事例が全国で発生する問題になっている。
わが国がいまだ封建社会であることを、奇しくもあらわす事例だ。

しかし、都会の集合住宅は別物で、「民主主義」ゆえの「面倒」が発生するのである。
法的な根拠がある「住宅管理組合」には、「資産価値の維持・管理」という目的があるけれど、町内会・自治会は「任意」かつ「住民相互扶助」という目的が成り立たない社会になってきている。

しかし、それでも「機能している」という前提にあるのが「自治体」という役所で、下部組織として便利に利用している。
だから、住民の側には役所に「利用されている」という意識がめばえて、よりいっそう町内会・自治会活動が「ムダ」におもえるのである。

すなわち、町内会・自治会の役員などを経験すればするほど、役所の町内会・自治会への支配(わずかな補助金をだす手法)が理解でき、その手先になることに疑問を感じるようになるメカニズムになっている。

ある意味、中学校の生徒会のようなもので、生徒が自主的に決めているようにみえるけど、じつは職員室が指示をだして、生徒たちに活動させているのだ。
快適な役所の空間から、末端の住民からはみえない、連合会組織などの上部組織をつうじて命じているので、よくにている。

そうかんがえると、わが国の役人たちによる住民支配の構造が学べるという意味で、町内会・自治会の役員を経験するのは役に立つことがある。

町内会・自治会の会合に地元政治家は入れないから、末端においても「政治」は住民から切り離されて、「行政」が住民と「寄り添っている」のである。
これは、ほんらい、逆ではないのか?

投資家として有名な「ジム・ロジャーズの日本衰退論」については、先月も書いた。
これを裏づける、たいへん身近なケースを体験したから書いておく。

町内会・自治会の班長をきめるにあたって、いったん承諾した二人の子持ちのお父さんが、名簿署名を拒絶して家にひきこもってしまったのだ。
チャイムを押そうがノックしようが、でてこない。
仕方がないので、一軒とばして80代でも元気な一人暮らしのお年寄りに頼んだら、あっさり引き受けてくれた。

別の班では、60代の夫婦ふたり世帯が「順番」になるのだが、とうとう県や市の広報紙から回覧板もいらないので、ぜったいに引き受けないと拒絶した。
そこまでして「強制」するのは「任意」にならないから、やっぱり一軒とばして80代があっさり引き受けてくれた。

「順番」だから一年早まるだけだ、という80代。
逆に、来年になったら生きているのもわからない、とも。

断ったひとたちの面倒くさいという気持もわかるが、自分か断ったらだれに順番がまわるのか知らないはずもない。
だから、「かんがえない」ことにしているにちがいない。

不便だったむかしは、隣近所と生きていたけど、便利になったいまは、じぶんたちの世界で生きていける。
たしかに、わが家だって全世帯にくばられる、県や市の広報紙をいつからか読んだことがなく、そのまま「古紙用」の袋に一直線だが、それで「こまった」ことがない。

その意味で、県や市という「自治体」と、住民生活が「分離」している。
もっと「分離」している地元政治家は、ひっつける「糊」として、税金をばらまくことに専念するしかなくなった。

台湾の李登輝(岩里政男)元総統のいう「公」の概念が失われ、「私」しかなくなったのが、戦後の「日本」だから、この意味でも戦前・戦中と戦後は別の国になっている。

いまや「公」の概念は、ロングテール状態で、なんとか「完全消滅」を免れているが、それは「極小化」の「微分状態」だともいえる。

子どもを前にして、「公」を棄て、自室に引きこもれる精神状態は、むかしだったら「異常」とされただろう。
しかし、そんなことはおかまいなしで、「引きこもったほうが勝ち」になるのである。

こんなおとなたちをみながら育つ子どもが、おとなになったらなにをしでかすのか?
わざわざジム・ロジャーズにいわれるまでもないことだ。

残念だが、そういう国になっている。

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