5日に発表された、「アメリカ合衆国国家安全保障戦略」による「大転換」は、まさに「文字どおり」だとはやくもわかってきた。
このほど、ホワイトハウスが否定している「長文の原文」がリーク報道されていて、そこには、「EU解体」と、「G7」の廃止及び、「C5創設」があると話題になっている。
まず、公式発表された方には、アメリカはEUを、「価値観をおなじくしない」と突き放し、そのうえで、世界の3極構造を明確にした。
米・露・中、である。
かつての、米・欧・日、ではない。
もっとも、米・欧・日での「欧」とは、事実上の(西)ドイツのことであったから、「日」を加えると、「旧敵国」となる。
これらの強大な潜在力をもつ独・日の二国を、アメリカにとっての戦後ヨーロッパの地域支配とアジア支配のために利用すべく、「育成した」のである。
むろん、宿敵ソ連を独・日で挟撃する、という大戦略もあった。
これを、昨日も触れた斉藤ジン氏のデビュー作『世界秩序が変わるとき』でも明言している。
市場関係者で、ここまで理解しているひとは、やっぱり珍しいから書籍もベストセラーになるのだろう。
逆にいうと、ふつうの投資家は、あたかもデイ・トレーダーのごとく、目先しかみていないのがふつうなのであって、機関投資家の中の多数のひとたちの安易な発想(頻繁に業界人と相場についての連絡を取り合っている)は、一般人でも驚くほどの無知ぶりを発揮しているのだが、動かす金額の大きさで、個人投資家を圧倒している。
これは、しっていること(世間の常識)が相場感を鈍くする、という異様な金儲けだけを優先させる現場感覚が免罪符になっていて、日常のストレスから精神の安定を求めると、難しいことは考えない方がいいという思考停止の自己免疫システムの発露でもある。
こんな歪んだ常識を社会一般に拡大すると、たとえば日本にあっての「高度成長」とは、上の斉藤ジン氏のいうように、アメリカ(カジノの胴元)による、一方的な勝ちゲームをやらせてもらえたことの結果であった。
なにせ、わが国の企業経営の実態は、源氏鶏太が書いた『三等重役』ばかりだったからである。
その重役たちが歴代で育成した重役たちが、いまの経団連の構成員になっているとみれば、なんの成長も進化もないのも納得できるのである。
だからか、わが国には「外部依存体質」が社会の中枢すなわち「芯」まで浸透したので、国家としての独自「安全保障戦略」を考案することもやめてしまった。
もう一歩踏み込めば、「国家安全保障戦略」がはっきりと描けなかったために、「国家安全保障戦略」があるアメリカの誘いに乗って対米戦争へと引きずり込まれたのである。
なので、こうした歴史をしっている、プーチン氏は、独自の「国家安全保障戦略」を描き、なお、それを粛々と実行している。
そうした視点から、「ロシア在住です」さんが、しっかりとしたロシアからの解説を提供していて参考になるのである。
なんにせよ、ウクライナ戦争の戦後世界を見据えているのが「アメリカ合衆国国家安全保障戦略」だからだけでなく、その主旨が過去からの経緯を大転換させる方針で貫かれていることがもっとも重要なポイントなのである。
上に挙げた斉藤ジン氏がうまくたとえている、アメリカはカジノの胴元で変わらないが、自分が儲けるための「客」を選ぶのが、「戦略」となっている。
だが、アメリカ一国だけでの胴元が維持できなくなったことが最大の変化で、このための新戦略が日本とドイツを取り込み、ロシアとの蜜月をもって、対中有利を意識しているのである。
この意味で、EUは中に取り込まれたから「価値観をおなじくしない」と断言しているのである。
それで、ハンガリー、オーストリア、イタリア、ポーランドを、EUから離脱させることを書いたのは、「反グローバリズムの闘い」=「新植民地主義との闘い」を全面に出して、EU解体そのものを意図しているといえる。
この巨大な流れの超ミクロな相似が、わが国の政界地図にもあるために、自民党の分裂や、戦後にできた既存野党の存立危機となってあらわれているのである。
戦後に封じ込められた、日・独の解放・独立をカジノの胴元が求めだしたのは、これ以上胴元からの直接支援ができないためという、切実がある。
だがそれは、一歩まちがうと日・独の破滅を意味するから、日・独もそれぞれが「国家安全保障戦略」を描かないと生存できないことにもなったのである。
これを誰が描くのか?
官僚ではない、政治家自身でないといけない時代がきたし、それを国民が責任を持って承認する判断を求められる、「正念場」になったのである。

