「教育用電卓」をおとなに売らない

一口に「電卓」といっても、四則演算だけの「ふつうの電卓」と、何十何百と用意されている計算機能の「関数電卓」とに大別できて、その中に「教育用電卓」がある。
それがまた、数式の扱い方法やグラフ描画機能で分別できるので、これまた一口に「教育用電卓」といっても豊富な種類がるものだ。

日本人は、「世界初!答え一発!」の宣伝が衝撃的だった日本製の『カシオ』が、世界最大の電卓メーカーだと思い込んでいるかもしれないが、関数電卓の分野でもカシオのライバルに『シャープ』があるし、『キヤノン』もある。

けれども、このブログで書いてきたように、世界ではあんがいと、『HP:ヒューレット・パッカード』とか『TI:テキサスインスツルメンツ』という老舗が有名なのである。
これら二大メーカーは、教師用と生徒用の「使い方ガイド」のみならず、さまざまな「演習問題」も用意している。

その理由は、『国際バカロレア』をはじめとする、世界における数学教育の標準に、「電卓をつかえるように訓練する」があるからである。
なので、試験に電卓を持ち込める、という概念を通り越して、「持ち込みの義務化」になっている。

計算問題の前に、「電卓のつかいかた」の出題があるからで、生徒には正しい手順のキー操作を、実際に操作しながら回答させるようになっている。
日本のおとなには一種のボーナス問題に聞こえるかもしれないが、彼らが持ち込むように指導される電卓の複雑なメニュー操作は、手に取ってみればわかるほどに簡単ではない。

そもそも、持ち込み指定される2万円から3万円する「教育用グラフ電卓」は、いまどき「ポケットコンピュータ」の進化版なので、メインメニューにある「計算の種類」も多数あって、どのモード・タイプの計算をこれからやるのか?から正確に選ぶことだけも、出題の意味があるのである。

ザッと挙げれば、基本計算モード、グラフモード、統計モード、方程式モード、3Dグラフモード、プログラミングモード、とかがある。
これに、行列、ベクトル、微積分は当然の機能だし、グラフモードで(連立)方程式の解(交点)をもとめるのに、描画した線上をなぞって求める方法も方程式モードとは別個にある。

はじめて操作するなら、こんな出題にサッと答えられるものではない。

だがしかし、作り手で販売元のメーカーは、「教育用」との既成概念にとらわれてしまっていることに気づいていないようである。

グラフも描ける大画面の電卓は、数式モードなら何行も表示される便利さがあって、さらに統計モードにある「表」をつかえば、あたかも表計算が可能なのである。
入力したデータの見直しができるのは、表示部のちいさい電卓では不可能だ。

そんなわけで、おとなになっても業務で十分に使えるから、液晶部などに故障がなければ「一生もの」であることはまちがいない。

今どき少なくなった書店では、おとなむけの参考書たる「やりなおし」とか「おとなの学び直し」とかいった参考書が並んでいる。
ここに、なぜか「教育用グラフ電卓」とセットで解説するものがないのである。

これは日本における教育用電卓の普及がないことへの、従順な対応としかおもえない。

だが、おとなに対してならば、存分な解説書があって然るべきではないか。

中国語では、道路工事のための関数電卓の使い方、なる本がでている。
おそらく、いろんな分野における「使い方」が出版されているのだろう。
これは、圧倒的なエンジニア育成数のちがいからでも想像できる。
日本とすでに人数で比較することの意味がないほどになっているのである。

なので、たとえば『カシオ』なら、教育用グラフ電卓をようやく国内販売をはじめたが、メイン・マーケットはアメリカのままなので、国内でのサービス軽視をしているのではいかと疑うのである。

これは、日本人全般にとって不幸なことだ。

おとなが使って便利なものを、子供に伝播しないはずもない。

ゲーム専用機を学校に持ち込むことは憚れるが、教育用グラフ電卓は、プログラムモードでゲームをつくることができる。
おなじ著者の「TI用]の解説もある。

だが、これは子供用の解説書なのか?といえば、そうともいえない。

おとながPythonを学ぶ、ひとつのアプローチである。
ならば、「大人買い」してもいいのである。




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