「脱工業化」からの脱出

ドイツのAfDが、「脱工業化をやめろ!」と、工業への回帰を訴えている。

「保守」と呼ばれてきたCDU(キリスト教民主同盟)のメルツ政権は、「脱工業化」を目指して、国内製造産業の解体を推進している。
これは、メルケル長期政権からショルツに政権交代しても一貫したもので、さらにメルツ政権になっても続いているからドイツ人に「選択肢がないも同然」であった。

わが国と張り合った、自動車産業が崩壊をはじめて、もはや誰にも止めることができない。

果たして、ドイツは間に合うのか?

このドイツの悲惨のさらに先を行くのが、アメリカ合衆国の製造業である。
トランプ政権2.0が「関税」をつかってなんとかしようにも、なんともならないのは、サプライチェーンだけでなく、そのなかの「職人」が絶えてしまったことにある。

その象徴的典型が、「B2爆撃機」の復活製造の困難である。

このあまりにも秘匿された飛行機は、その群を抜く高額さもあって、試験機を含めたった21機しか製造されず、貴重な1機は墜落して失った。
運用開始は1997年だが、今年のイラン核施設空爆に用いられ、トランプ大統領が絶賛しながら製造再開を口にしたが、もはや上の理由とおなじで「不可能」となっている。

「設計図どおりに作れたら苦労はない」とは、リチウムイオン電池のケースや、無痛針を開発した、岡野工業の岡野雅行氏の言葉である。
その岡野工業も、2020年に高齢のためと後継者不在で自主廃業している。

金(Gold)と同価とさえいわれた「B2爆撃機」も、岡野氏の言葉どおりで、完璧な設計図は残っていても、「作り方」がわからなくなっていた。
このことは、前に「ジェットフォイル」のことを例に書いた。

もっと卑近な例をあげれば、「内製」と「外注」の論争がある。

わたしの経験でいえば、ホテルの食器管理ノウハウが、「外注」によって失われるのに、たいした時間を要しなかったことがある。
大量の食器をどのように在庫管理するのか?はあんがいと難易度が高く、高価な「銀器」に高価な「陶器」の不足分発注は、イコール「コスト」になってバカにならないのである。

ましてやそれがオリジナル・デザインであれば、みえないサプライチェーンでのみえない在庫もあるから、安易に店舗改修やらをおこなうと、廃棄コストも半端な数字ではない。

そんなわけで、わが国は、アメリカやドイツに比べて、中途半端な政府の介在で、まだなんとかなりそうな気配だけは維持している。
しかし、周回遅れの日本政府の立ち回りによっては、産業破壊の施策が次々と打ち出されることもあり得るのである。

ドイツが狂いだしたのは、エネルギー源の放棄からはじまり、「再生可能エネルギーヘのシフト」なる美辞麗句に誤魔化されて、産業の基盤たる電気のコストが爆上がりして競争力を自ら削いだことによる。

わが国も、しっかり追従しているのを止めるものがいない。

この点で、現状「まとも」な、財務大臣と内閣府特命大臣の女性ふたりが踏ん張っているようにみえるが、高市内閣の内部崩壊があるとすれば、このふたりを起点にした亀裂にちがいないだろう。

はたして、わが国の製造業は持ちこたえることができるのか?

すくなくとも、アメリカよりも先にあった最前線から完全脱落した英国の轍を踏まないことが、最低の生き残りなのである。

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