『マイティジャック』の勧善懲悪

1968年4月6日から6月29日までの短期間、フジテレビで全13話の放送がされた特撮番組である。

この番組は、あの「円谷プロ」が大人向けとしてこだわった、世界にまたをかける悪組織「Q(キュー)」との闘いを社会派的に描いた特別があったのだが、内部崩壊と視聴率低迷のダブルパンチで消えてしまったうらみが残る。

いまさらだが、音楽は巨匠、富田勲だ。
昭和一ケタ、7年生まれ、36歳のバリバリが採用されて、番組製作の意気込みがウソでないのはわかる。

さて、当初のターゲットがおとなであったことから、放送時間は毎週土曜日20時からであった。
すると、わたしの記憶にある『マイティジャック』は、その後子供向けになった『戦え!マイティジャック』の記憶にちがいない。

当時の子供は、8時には寝かしつけられていたからだ。
子供向けになった放送時間は、毎週土曜日の19:00から19:30だった。

ようは、当時のおとなは、世界最高峰の特撮のこだわりよりも、ありえない設定のドラマに「観る価値はない」という判断をしていたわけである。

たとえば、「Q」といえば、『007』における秘密兵器開発部隊の長のことだと連想するのは、第一作『ドクター・ノオ』の1962年から毎年のように制作れたことでの刷り込みがあるからだ。

それでも、戦争体験者が多数だったので、『007』すら「子供だまし」だと嗤っていたおとながたくさんいいた。
なお、おのオバケ番組、『8時だヨ!全員集合』は翌年からTBSでスタートした。

「お笑い」に日本人が逃避したのである。
なるほど、「エロ」「グロ」「ナンセンス」の自暴自棄が流行ったのもわかる。

さて突如、YouTubeでお勧めにでてきたので、わたしはおそらく初めて大人向けの初回から3話を一気に視聴した。

この物語の目玉は、なんといっても「マイティ号」なる、超音速で飛行できる潜水艦の活躍なのである。
どうやら、原点に東宝映画の『海底軍艦』(1963年12月)があるらしい。

しかし、おとなになったどころか、老齢になったわたしから観た、設定の妙が気になるのである。

それは、「マイティ号」とその運用組織「マイティジャック:MJ」を牛耳る人物が、どうやら民間人らしいのである。
この点で、『サンダーバード』と酷似している。

加えて、「マイティジャック」のメンバーたちの異様に高い能力がある。

いったいどうやって、若くしてかくも高い能力を個々人が習得できたのか?についてかんがえたら、絶対に義務教育では到達し得ないものだ。
すると、この組織は、メンバー候補者をどのタイミングでスカウトして教育したのか?

それは、技能にとどまらず、組織の設立者への忠誠も含まれる。

ならば、敵対する「Q」とても同じことがいえる。
たとえば、第3話では、世界各地で偽造紙幣を製造し、各国経済を混乱に貶めようと画策するのである。

これをマイティジャックの活躍で阻止する話は、まさに勧善懲悪そのものではあるけれど、隊長はロンドンに飛んでスターリングポンド防衛に成功する話も入っているのだ。

これは、微妙な問題で、1944年(まだ戦時中)の「ブレトン・ウッズ体制」を、敗戦国日本の民間団体が維持することに貢献した、ともとれるのである。
なにしろ、この体制は連合国の為替相場安定のメカニズムをアメリカ主導で決めたもので、ようは、弱体化した英国ポンドの救済にかこつけた、ドル支配を決定づけたものだったからである。

すると、連合国に対する皮肉を込めたおとな向けドラマだともいえるのだけれども、はたしてどれほどのおとなたちが気づいたものか?

逆に、ロンドンでの失敗が報告されたら、それはそれで痛快だったかもしれない。
「鬼畜米英」は、戦争プロパガンダではなくて、史実からの結論である。

ならば、「Q」は悪だと断定できるのか?
じつに悩ましい、一種のシミュレーション・ドラマともいえる。

「Q」のエージェントとして登場し、偽1万円札を使ったのは、なんと若かりし山東昭子の役で、これより半世紀後の2019年に参議院(上院)議長になろうとは誰が予想できたものか?

やはり、事実は小説よりも奇なのである。

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