いかさまな観光地をつくる

「ガッカリ観光地ランキング」というものがある。

自然風景や歴史的建造物も含まれるが、圧倒的なのは、「いかさま=偽物」でできた人工的観光地の存在である。

世界的に有名なのは、シンガポールにある「マーライオン」であろうか。

どれほどのガッカリかを確認するためにじっさいに観に行って、「なるほど」としっかりガッカリして帰ってきたものだ。

ガッカリを確認するための「観光」というものもある。
観光の本質が、「体験」とか「体感」だからだ。
なので、阿呆がつくった「バーチャル観光」が無意味となるのは、バーチャル体験とかバーチャル体感では、人間は満足しないからである。

こんなことがわからないはずもないのに、「やる」のは政府からの補助金がでるからで、それ欲しさの卑しさも無意識に「体感」するのが人間というものなのである。

かつて、わが国が「アジアの盟主」といわれたのは、アジアで独立している国が、日本とサウジアラビア、それにタイぐらいしかなかったために、アジアで最初に工業化に成功したわが国が、気がつけばあたかも「アジア代表」のようになったからだった。

しかもそのやり方が、典型的「開発独裁」だったから、世界で最も成功した社会主義国といわれたのだった。

しかし、自民党を中心とした既存政党ぜんぶの悪政から、一世代以上にわたる経済の衰退(政府が経済に介入して起きる典型的な「政府の失敗」)が止まらず、あろうことかとっくに独裁国家のシンガポールに抜かれたばかりか、一人当たりGDPで2倍半も差が開いてしまっていまさら縮まる要素が見当たらない。

つまり、わが国のエリートは、シンガポールのリー・クアンユー一家にかなわない愚かさだということが、世界常識になっているのだ。

そのまたひとつの例が、「インバウンド」という外国人観光客が落とすカネに目がくらんで、あいも変わらず計算能力のない人たちが、「観光立国」なる幻想を追いかけているけれども、「産業規模」としてみたら、とうてい工業にかなわないのが実態である。

そんなダメダメの業界だから、徹底的に行政に依存する。

行政は行政で、目先は議会のチェックという一応の形式がある。
だから、「いかに責任を逃れるのか?」という問題と課題が混然とした、みうらじゅん著『やりにげ』状態をつくりだすことに専念するのである。

この書が醸し出す「昭和の香り」とは、無責任の匂いのことなのだ。

全国の地方行政ばかりか国家も、なんでも「マンガチックな着ぐるみ」を創設して、その「子供だまし」の無責任をみごとに「ゆるキャラ」と表現した「みうらじゅん」の天才が光る。

横浜には、1959年の皇太子ご成婚を記念して、「こどもの国」という、国家から資金も出た大公園があって、東急が運行する「こどもの国線(3.4㎞)」に乗っていくのが定番だった。

わが家からは、東神奈川を経由して横浜線で向かったから、やたら遠く感じたのもまた異空間に行く感じで盛り上がったものだ。
当時の横浜線は、1時間に2本しか走っていなかった。

この100ヘクタールもある敷地は、かつての陸軍から米軍に接収された弾薬庫で、タイミング的に「うまいこと」返還されたのだった。

さてそれで、いかさまな観光地である。

わが国には、たくさんの「いかさまな観光地」があるけれど、なかでも悪質なのは、あたかも「本物を装う」のだが、その実なかみは「オリジナルの由来とは縁もゆかりもない」ことにある。

たとえば、「大阪城」もしかりで、神奈川県でいえば、「小田原城」もそれにあたる。
鉄筋コンクリート造りで、見た目は城でも建築的な価値もない。

沖縄なら、「首里城」になるから、なんだか「城」が多いようだが、ほかにもたくさんある。
全焼した首里城は、例によって「再建」されるというが、どんなふうに再建されるのか?
なお、この場所が「世界遺産」なのは、建物ではなくて「城址」だけなのである。

では、その「城址」をどうやって解説・説明するのかについて、恐ろしいほどに無頓着なのだ。
これは、沖縄だけのことではなくて、全国のいかさまな観光地の共通なのである。

「予算がない」からケチって工夫するのは、いかさまな観光地をつくることに適用してはならない。
観光地にしたいなら、本物を後世に伝えないと価値がないからである。

すると、そこには伝統的工芸の技術の発露がひつようになる。
まさに、伊勢神宮の「式年遷宮」のような、技術と技能の「総力」が求められるのである。

しかして、観る側の知識欲が薄れたら、それもまた「いかさまな観光地」をつくる誘惑に変わる。

インバウンドが欲しいといいつつ、最上客たる富裕層が、いかさまな観光地を観る来るとかんがえるのがどうかしているのである。

いかさまな観光地で満足する愚民(たとえば「インスタ映え」さえすればなんでもいい)ばかりをあいてにするうちに、予算をたてる側がもっと愚民になっているのだった。

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