ちゃんとした企業の博物館

企業の社会的責任が問われて久しいが、これを地道に実戦する手段のひとつとして、「博物館の設置・運営」がある。

たとえば、大規模なものなら、JRの『鉄道博物館』があるし、世界のトヨタには、『トヨタ産業技術記念館』がある。
かつて、日本経済を支えた線維産業だと、『グンゼ博物苑・記念館』、文化の根幹にある印刷だと、『市ヶ谷の杜 本と活字館』がある。

これらの施設の特徴は、ちゃんと人員を配していて、説明や実体験の工夫がなされており、ただ展示だけのおざなりとは一線を画していることにある。

「日本的経営」といわれて、欧米企業とはちがうのだと高く評価してきたはずの、「株式持ち合い」が解消に向かうのはバブル崩壊を受けての90年代であったが、2001年には、法律で「禁じる」、「銀行等の株式等の保有の制限に関する法律」が公布されるに至る。

株式の持ち合いに、欧米企業とはちがうどんな特徴があったかといえば、「目先の利益追求ではなく、長期的戦略重視」ということにつきた。

しかしながら、グローバル・スタンダードという、カタカナ政治用語の拡散をするひとと呼応するマスコミの宣伝によって、あたかも「株式の持ち合いこそが諸悪の根源」という位置付けに見事に変換されたのである。

言いだしっぺは、竹中某という有名大学教授であったけど、のちに参議院議員となって、正々堂々と「入閣」することになったから、単純にみても「党」の意志としての政治家への転換・転職を成功させたともいえる。

本ブログの読者には、記憶にあるだろうけど、諸悪の根源である、「世界経済フォーラム」で、日本人で唯一の評議員だったのはこの御仁であったし、ソ連崩壊後の92年にアメリカのグランドストラテジーが書き換えられたこともこの一連の動きに関連しているはずなのである。

つまり、アメリカによる戦後の日本「肥育」モードから、「刈り取り」モードに大方針が変更されていまにあるのだ。

このことは、高度経済成長なるものが、あたかも日本人だけの努力の成果だとされる「勘違いの醸成」とセットで、じつは、「肥育モード」として高度経済成長だったとすれば、じつに辻褄があうのである。

その狙いは、「不沈空母」としての、対ソ・対中の封じ込め戦略の一端を担わせるためであったにちがいない。
その相手の消滅(対中は残ったが)で、日本を成長させる必要がなくなったばかりか、むしろ、巨大化した日本経済のコントロールが困難なために、衰退させると決めたのである。

そこで、「目先の利益」しか見えないようにさせるべく、株式の持ち合いをやめさせた。
これに、「物言う株主」がセットになってトレンド化もさせるプロパガンダも成功したのである。

だから、企業博物館を設置・維持するばかりか、人員も配置することは、かなりちゃんとした説明を経営者はしないといけないので、こういったことをやめずに続けている企業こそ、「名門」に値する。

学生の就活における目線として、企業の人事担当者や学校の先輩を訪問するだけでなく、「博物館」の有無にくわえて、運営方法もチェックすると、「いい会社」をあぶり出すことができるのである。

それは、その企業の発展に貢献した、従業員たちによる成果の一般への発表の場であるからである。

つまり、「ひと」をどのように扱うのか?あるいは「扱ってきたのか?」のリトマス試験紙のようなものだからである。

さらに、その博物館に配属されることが、じつは「栄誉あること」という風土や認識があるかも、重要なポイントなのである。
サービス業ではピンとこないかもしれないが、製造業の場合、直接に一般人と接する機会はあんがいとない。

ゆえに、博物館勤務になることは、貴重な体験となるから、元の職場に異動してもその職場の活性剤としての人材になると期待できるのである。

こんなことを意識的に社内共有し、博物館の位置づけのおおきな意義が風土として認識できる企業は、やっぱりいまどきでも「名門」にちがいない。

さてそうなると、サービス業のばあいで企業内博物館を設置するなら、どんな展示と人材を配置したらよいのか?は、あんがいと智恵を絞ることになる。

だから、智恵を絞らない企業だと、よくて無人「展示室」だけの「歴史館」がせいぜいで、面白みもないから常にだれも入室しないデッドスペースと化し、ついには、なんのための展示室なのか?となって、いつか倉庫になるのだ。

なにを誇りとして、どこを一般客にアッピールしたいのか?の企画ができない企業は、そもそも博物館をつくることもできない。

そうやって、企業価値を観察するのも一興なのである。

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