わかりやすい『肉食の思想』

広島原爆の日を前に、プーチン氏とトランプ氏がそれぞれ別に、コメントを述べていて、ネットで話題になっている。
当然だが、地上波や新聞は、こうしたことを一切報じなくなったので、「情弱」はより情弱へと情報格差が拡大している。

日本人の多くは、いまだに「ソ連」と「ロシア」の区別がついていない。
その理由は、主に北方領土とシベリア抑留、その前の満州へソ連軍の無差別侵攻があったことへのけじめがついていないことがあるのは確かだ。

このなかで、北方四島については、アメリカ軍から連合国(味方)として分け与えられたことが判明したのである。
ようは、アメリカ民主党政権は、勝手に分け前(他人の領土)を分配していた。

そうやってかんがえると、ソ連が崩壊して東欧諸国が「独立」したときが、北方領土問題解決の千載一遇のチャンスだったのを、わが国は見すごしたことになるのだけど、きっとアメリカからなにかをいわれたにちがいない。

つまり、「属国」なのである。

プーチン氏のコメントは、アメリカは軍事的に原爆投下をする必要がなかった、というものだし、前大統領としてのトランプ氏は、「決して良い行為ではなかった」と、アメリカ人を代表して歴史的な発言をしている。

そんなプーチン氏とトランプ氏が、どうして「欧米」において、主流にも本流にもなりきれないのか?についての理由がわかる分析が、鯖田豊之著『肉食の思想』(1966年)である。
もちろん、鯖田氏は、この二人をしらないで書いているのだから抽象的な捉え方にはなる。

これと、映画『1900年』が、見事に重なって納得できたのである。

なお、『肉食の思想』の解析対象は、あくまで「西ヨーロッパ」なので、そこから派生したアメリカは対象として該当するが、辺境のロシアは該当しない。
ロシアは西ヨーロッパから視たら、モスクワも含めてヨーロッパではないのである。

まずこれで、プーチン氏の立ち位置がわかるというものだ。

ここで、いまさらながら、日本列島という「島々」の地球上での特異な位置を確認しておくとより、この本の議論が理解しやすい。
じつは、日本列島は、地上で唯一、大陸近くの温暖帯に位置している島国なのである。
つまり、絶海の孤島ではない。

この限られた島という空間でも、大陸との交わりがあった。
それゆえに、島独特のオリジナル性と外来文化が交差して、それがまたあらたな島の中の文化を育んだのである。

一方で、英国やアイルランドがあるヨーロッパは、地球の緯度でいえばかなり北に位置し、巨大なユーラシア大陸の西の端にある、意外と狭い地域を指す。
ここは、その気候と地質ゆえに、穀物生産には適さない土地柄なのである。

あえていえば、ローマのはじまりが農業国であったように、イタリア半島の一部がまだ「麦」栽培に適するが、水との関係で水田にはならず米は栽培できない。

ただし、著者の鯖田豊之氏がこれより2年前に書いた、『日本を見なおす』(講談社現代新書14,1964年)では、「古代ギリシャ・ローマ」をあえて西ヨーロッパとは「別物」として扱っているところがユニークなのである。

並行世界として西ヨーロッパと日本の歴史を比べると、西ヨーロッパからみた古代ギリシャ・ローマは、あたかも日本から視たら、古代中国・朝鮮にあたる、というわけである。
よって、あくまで日本を中心にしたら、「別物」とするのと同じになる、とは納得させられる。

日本人が肉食に依存しなかったけれども、ヨーロッパではそうはいかなかった。
そして、いまだにヨーロッパ人(アメリカ人も)は、「主食と副菜」という概念がない。
『1900年』は、イタリアが舞台だが、農民の暮らしに焦点をあてると、「肉食」との関係がみえてくる。

なお、横浜の「映像ライブラリー」には、かつて放送されたNHKの教育テレビスペシャル、『人間は何を食べてきたのか』シリーズ第1集『肉』(1985年1月7日放送)に、ドイツ(当時は西ドイツ)における豚(家畜)との暮らしがあって、より鯖田豊之氏の説に説得力がある。

このことが、どんなふうに「思想」に影響するか?がわかるので一読を勧めたいのだ。
しかも、インドのカースト制の説明まである。

地球は広く、地域特性は「別の人間」を育むのである。
この区別は、人種の別ではない。

そうやってついに、わが国が開戦決定し敗れたことの論理までが解説されるのだが、このことは「敗戦」によって分断なんかされていない。

反省なき日本人は、相変わらずの「実験材料」なのであった。

プロパガンダのニュース映像に洗脳されるよりも、よほど重要な情報がこの二冊にある。

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