イギリスが先に壊れていく

ユナイテッド・キングダム(連合王国:UK)は、4つの王国(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)が文字どおり「連合」してひとつの近代国家を形成している。

アラブ首長国連邦(UAE:むかしは「ア首連」と略していた)と、形態は似ている。

スコットランドと北アイルランドが、それぞれUKからの独立を画策しているのは有名な話だが、ロンドン政府の統治能力が壊れている深刻がある。

来年予定されているイギリスの総選挙では、現状、圧倒的な保守党の凋落から、労働党への政権交代が確実視されている。

けれども、今年の11月、アメリカ大統領選挙の結果を受けて、「ほぼトラ」が実現したら、イギリスもそう簡単に労働党へのバトンタッチがされるかどうかはあやしい。
むしろ、トランプ氏の当選後に時間がたてばたつほど、「打つ手」の正当性が、反トランプたちの目覚ましになる可能性が高まるからである。

いまや世界は、「保守と革新」とか、「左右の対決」とかという平面的な対極から、「グローバル全体主義」と「そのアンチ」とに分裂していて、アンチの側の代表にトランプ氏がいるにすぎない。

アンチには、ハンガリーのオルバン首相、ロシアのプーチン大統領、アルゼンチンのミレー大統領、それにフランスのルペン女史、イタリアのメローニ首相らがひかえていて、ドイツやオランダでは勢力が急伸している。

日本では、「親米保守=ビジネス保守」たちの親米がイコール「親・民主党=グローバル全体主義=トロツキー派」を意味することがハッキリしてきたのも、このひとたちが反トランプという立場を崩さないことであぶり出されている。

イギリスは、第一次大戦以前から国力の衰退が顕著であったために、清国と太平洋の覇権確保のために日本を、薩長とともに開いて、はなからアメリカを牽制していた。
当時は、アメリカもイギリスに従っていて、国力をため込んでいたのである。

しかし、大英図書館にこもって『資本論』を書いたマルクスを、あたかも「偉大なる無視」といって興味なさげに誤魔化したけど、本当はむき出しの野蛮な儲け主義に対するマルクスの批判が効きまくったのである。

これを、『エレファントマン』(1980年)で、見事に映像化した。

この映画の主人公は、気の毒にも「エレファントマン」と呼ばれた障がい者ではなく、ヨーロッパ大陸からの野蛮なノルマン人によってケルトが征服されてしまったことを原点とする、産業革命下での廃退した社会そのものであった。

なにせ、この国の王権は、日本的にみたら「ヤクザ」そのものだし、最強の海軍すら、実態は単なるドクロの旗を掲げる「海賊」にすぎなかったのである。

ふだんはドクロの旗を掲げ、王からの命令一下で「海軍旗」にかけかえた。

これをもって、日本人にはありえない卑怯な「偽旗作戦」が、彼らにはなんの道徳的後ろめたさも微塵もない、騙される側が悪いという何でもありがふつうの神経でできるのである。

わたしは、「資本主義」とはマルクスの造語にすぎないとかんがえているが、あまりの無惨な社会実態に、あたかもそれが資本主義の弱点なのだと勘違いして、数々のマルクスの指摘に沿った、本音では妥協の「対策」をとった(たとえば「福祉国家」という社会主義化政策)ら、なんとなく無惨が改善できた(あくまでも「対処療法」)ので、財政豊かなうちに本気で福祉国家に邁進してしまったのである。

魚が釣れないひとに釣れた魚を分け与えるのではなくて、「確実に釣れる方法」をしっかり教えることをトランプ氏がいうのは、しごく当然のことである。

ところが、そんなイギリスもざっと70年で財政破綻したから、とうとうサッチャーの出番となって、一気に「自由主義革命」まで突っ走ることになり、彼女の実子が母に楯突くのと重なって、福祉国家のぬるま湯に慣れてしまった国民からも嫌われて頓挫・退陣の結果に泣いたのだった。

左右に関係なく、「革命」とは失敗するものなのである。

なお、余裕のあるレーガンのアメリカは、パパ・ブッシュからあえなくクリントンに政権交代し、やっぱりグローバル全体主義へと舵をきったので、この30年のアメリカでトランプ氏が「外れ値」になったのだった。

適当な見せかけをやった中曽根内閣以降のわが国は、バブルで浮かれて、「冷戦終了=日独からの刈り取り」への大戦略変更に気づかないまま、21世紀になってもまだアメリカ依存をやっていて、これがあたかも「イギリス化の道」を既定路線の鉄道のようにひた走っているのである。

もちろんこんなイギリスの状況を知らないはずのないわが国のエリート官僚(オックスフォードやケンブリッジ、ロンドン大などに留学して、国費で学位を得ている)は、昭和36年に「社会保障制度」を完成させて、やっぱり70年で破綻するが国民には「安心」だと大嘘をついて平気でいる。

そんなわけで、いまのイギリス政府は、とうとう統治機能を喪失して、まもなく終了する様相になってきている。

なので、トランプ氏が復活したら、カウンターパートとしてイギリスにも第二のサッチャーが登場するだろうが、その前に、国民は塗炭の苦しみを味わうことになるのだろう。

昨年、ロンドンに次ぐ第二の都市、バーミンガム市は財政破綻して、あたかも「夕張市」のように中央政府直轄になったけど、今年からゴミの収集日が二週に一回となっているため、この夏は街中が悪臭にまみれることが確実になった。

ちなみに、中央政府直轄になったとは、市民が選んだ地方政府の責任を市民が追うという厳しいペナルティーがはじまった、という意味で、こうした厳しい責任を市民が負うことで、「地方自治こそが民主主義の学校」といわれる本来のゆえんなのである。

わが国も、順番待ちをしているので、イギリスがどんな悲惨になるかは「明日は我が身」なのであるけれど、脳まで溶けている愚民にそれが理解できないから、やっぱり順番通りになるのだと覚悟しておくことが必要なのである。

以上が大袈裟ではないのは、1日、とうとう金の価格が1グラム1万2千円を突破したことからそのまま読み取れることだからである。

コロナの始まりでは、7千円だったから、「円・ドル相場(1ドル100円が150円になった)」と並んで、円価(円の価値)が金でも半減しているのである。
つまり、バイデン政権によるインフレでのドルの減価よりも、円が一方的に価値を失っているのである。

だが、日本政府も日銀も、なんら具体的な手を打たないのは、理論の貧困ではなくて、政治の圧力から「打てない」からである。

驚くほどのスピードで、われ我は貧乏になっているのに、気がつかない大ボケが日本国民なのである。
この「ツケ」は、終戦時の大混乱よりも無惨なことになる可能性が高い。

ガソリンがリッター500円やら800円になってもおかしくない。これが、冗談抜きで、政府の補助金と業界規制(社会主義)が、国民の目を現実から遠ざけているから、「いざ崩壊!」となったら、あんがいとイギリスよりもずっと深刻なのは日本なのである。

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