15日、トランプ政権2.0は、ハーバード大学への国家助成金(22億ドル:約3150億円)を停止すると発表した。
ホワイトハウスのレビット報道官は、学内の「反ユダヤ主義活動」の放置やDEI(多様性、公平性、包摂性)プログラムの停止、マスク着用の禁止、さらに、実力主義による教員採用などについて要求してきたが、これらを受け入れないことへの報復としている。
もっといえば、ハーバード大学を「政治団体」と見なし、課税対象とするために、これまでの「非課税資格の剥奪」をも示唆している、と報道している。
対して、大学側は要求を拒否しているが、一部には破産の危機が懸念されている。
これらの事態は、いわゆる「アイビーリーグ」のすべてと、全米の大学・大学経営者・学生に影響を与えている。
さて、ここから見えてくることが今回の拙稿の話題である。
むかし、外資系投資銀行に在籍したときに、同大学卒業の社内弁護士と懇意となった。
そこで彼が熱く語っていたのは、「卒業生への手厚いサービス」があることだった。
当時として、「へぇ」と思ったのは、大学オリジナルの「メールアドレス」を生涯無料で利用できることも「卒業特典」なのだと教えてくれたことだ。
同窓生たちは、これでグループを形成しているという。
彼曰く、ハーバードに入って卒業するまでの「勉強地獄」を通過した者だけに与えられる、生涯の「栄光なのだ」と。
すさまじい勉強時間とそれに耐える体力&集中力があってこそ、だという。
毎週出される、数百ページに及ぶ容赦ないレポート課題をこなすだけで、睡眠時間は犠牲になる。
なお、この「レポート」の英語添削能力が、「正教授」に必須のものであるために、アメリカ人学生も、「英語力を鍛えられる」のが、アメリカにおける大学教育の本質なのである。
すなわち、特定階級に通用する「用語・用法」をたたき込まれるのである。
ここが、緩すぎる日本の大学とは異次元になるポイントなのである。
日本人学生が日本の大学を出て就職しても、A.I.に文章を添削してもらうレベルなのとまったく異なるからである。
大学院大学の「シカゴ大学」にいたっては、学生クラブすら存在しないのは、勉強時間のために余計な活動ができない当然であるからだし、そもそも「留学ビザ」では、日本的学生アルバイト(事実上の就労)も不可能なのである。
この意味で、トランプ政権2.0が厳しくする「留学ビザ」も、とにかく勉強しろ!ということか?
サッチャー首相が、デモ隊の若者たちに向かって、「悔しかったら勉強しなさい!」といった言葉が懐かしい。
その辺の「教育ママ」とはちがって、「勉強」の意味が深かった。
すくなくとも、日本的「受験勉強」という意味ではない。
英国人は、この彼女の言葉をとうとう理解しなかったようだ。
それは、左翼活動家になったサッチャー家の子供も同然だったから、親の心子知らずなのは世界共通か?
ために、ハーバード卒業後はたいがいの人物は反動で弛緩するのだ、ともペロリと告白した。
じつは、アメリカの「学歴主義」は、日本の比ではない。
世界で君臨する資格を得る、「真のエリート=選ばれし者」という暗黙の合意が形成されているのである。
だがしかし、そのための交換条件として、学費が1年で1500万円程度もかかる。
卒業まで4年で6000万円の授業料負担に耐えねばならないから、「貧乏人」にはまず不可能な「関門」になっている。
さてそれで、トランプ政権2.0による「教育機関への政府助成金の意味」が、より明確になったのである。
つまりは、「国家行政に従う義務」が自動的に発生することにある。
ただではくれない。
「州立大学」ではなく、連邦レベルの国立大学が事実上存在しない(「士官学校」などは除く)アメリカにあってさえ、国家からの助成金とはかくなる「義務」がついて回るのである。
これが、わが国の場合、全部の大学が国家からの助成金を受けているのに、なにも問題にならないのは、文科省の言い分を全面的に漏れなく各校が受け入れているからにすぎない。
さらに、そんな大学の「入学」にこだわるのは、「教授陣」や「授業内容」すらしらない情報格差による操作なのだと気づかないからだろう。
たとえば、大学間の単位取得における「互換」が不可能なのが日本というシステムなのである。
「学問の自由」を、学術会議の学者は常に口にはするが、学生が国が設置を認可した他校での授業に勝手にもぐり込むことはできても、「単位」とはならない不自由の現実がぜんぜん議論もされないという、うそのような学問の自由がない大学履修制度がわが国のふつうなのである。
これは、「単位制」をとる高等学校でもおなじだ。
他校のおなじ科目の授業を、生徒は自由に履修できない。
そうやって、教師の授業品質の競争を阻止している。
これがまた、教育委員会の役人発想からの不自由の押しつけなのである。
逆にいえば、生徒が「わかる授業」をやる教師を押し込めて、そのノウハウを一般化しない。
たとえば、今東光(後の天台宗大僧正にして参議院議員)が、生涯の友とした川端康成が通う東大の授業に「偽学生」として紛れ込んでいたら、教授が「(成績優秀な)今くんの名前が履修者名簿にないのは事務局のミスだと指摘したら、事務局がそんな学生は本学に存在しないと回答を得たが、どういうわけか?」ときかれ、「偽学生です」と答えて教授の方が驚愕したというエピソードがある。
それでこの教授は、受講を拒否したのではなくて、特別学生として受講を許したという。
なにせ、成績はクラスでトップだったのだ。
もちろん、今東光の学歴に東大卒はない(最終学歴は旧制兵庫県立豊岡中学校卒)が、それがなんだ、という痛快があった。
トランプ氏のいつものパターンで、まず相手にぶちかましてから妥協点をさがす手順とみられるが、「政治団体に認定して課税するぞ!」というのも、痛快なのだ。
そのまま、ハーバードが政治団体になれば、もっと痛快だ。
トランプ大統領は、サイバー大学として、「無料」の国立大学構想も発表している。
日本の「放送大学」だって、無料ではない。
つまり、世界のひとたちが、無料でアメリカの大学卒業資格を得ることができるかもしれないのである。
これぞ、痛快なトランプ革命なのである。