フルトヴェングラーと雅楽

史上最高の指揮者との誉が高いのが、フルトヴェングラーである。

残念ながら、人類が「録音」できるようになったのは、エジソンの蓄音機の発明(1877年:明治10年)をもってしてであったために、これより古い指揮者の演奏記録は文章だけとなっている。

それで、古い録音版(レコード)は、材質の関係から劣化が激しいために、デジタルリマスターの作業が欠かせない。
このとき、「針跳び」や「雑音」を周波数でカットする作業も行われる。

ここで意外なのは、おおくの「モノラル録音」の音が案外といいことで、よくかんがえれば人間の耳は「モノラル」で聴いているから当然なのである。

それで、ステレオ録音をするときのミキシング技師が「作った音」を聴かされてきた耳にかえって、心地よい、という嬉しい結果も伴って、とうとう現代オーディオの世界で「モノラル・ブーム」まで起きた。

そのために、70年代を中心に君臨し「帝王」と異名をとった、カラヤンの「サウンド」は、ベルリンフィルに「完璧な同期」を要求して、まるで鏡状の湖面に波紋が広がるような音楽となって、それをまた技師が強調した録音をレコードにして販売したのである。

なので、カラヤンと組んだ芸術家の大賀氏がソニーの社長時代、ソニーが再現したのは、カラヤンの思想による「サウンド」だったとおもわれる。
「おもわれる」というのは、わたしはそこまでマニアではないからだ。

ただし、コンサート会場で聴くのと、イヤホンやヘッドホンで聴くのとはぜんぜんちがう。
これは、「腹で聴く」というように、全身の皮膚を通して震える振動も一緒に聴いているからである。

カラヤンに対して、フルトヴェングラーや、その後継者のひとりベームの音楽は、「ゆらぎ」に価値を置いたから、同じベルリンフィルでもカラヤンとはまったく異なる演奏になった。

両者の共通する特徴に、カラヤンと比して「テンポの遅さ」があるけれど、加えてフルトヴェングラーの指揮には、指揮者による「同期をしない」で、それを演奏者に要求したために微妙にズレるのだが、それこそが「ゆらぎ」となって、聴くものを引き込むのである。

この微妙な加減ができる指揮者は、フルトヴェングラー以外誰もいないために、史上最高の評価がゆるがないのである。
ベートーヴェンで圧倒するフルトヴェングラーだが、なかでも「第6番『田園』」の悠然とした風情は、一度聴けば直撃を喰らうだろう。

さてそれで、わが国には「雅楽」がある。

この中央アジア的な音の広がりの不思議は、まったくもってフルトヴェングラーの演奏手法に似ていて、遅いテンポに「同期させない」ために、はなから指揮者もいない。

楽譜もない雅楽は、口伝(歌って覚える)を千年単位で繰り返してきた。
完成は「天平時代」なので、それまでどれほどの時間を要したものか?と追求しだすと、とてつもなく長い時間をかけて「完成」の域にたどり着いたといえる。

このテンポの音楽が、生活リズムだったにちがいなく、そこで交わされていた「大和言葉」を、「はちあ」さんが発音再現している。

こうした意味で、ポストモダン時代のカラヤンのスピード感ある演奏は、わたしには「やりすぎ」の感があって馴染めないのである。
しかも、弦が渋く濁るウィーンフィルの音色が、なんともいえずに馴染んで、ベルリンフィルの透明感が人工的にすぎるのである。

ところが、フルトヴェングラーが振れば、ベルリンフィルがおとなしくなる。

先の大戦では、ベルリンフィルは「帝国オーケストラ」と呼ばれていた。
いまもYouTubeに残る、ヒトラー誕生日の「第九」は、あまりの完成度ある名演に、戦後、フルトヴェングラーがナチスに協力したとして糾弾されるにいたる原因ともなった。

しかして彼は、あまりにも音楽に没頭して、政治を忘れていたのである。

「雅楽」も、本来は宮廷音楽であったので、政治的な意味合いと関係が深かったはずではあるが、武家政権=幕府が誕生してからは、「宮中」における儀式での演奏になったので、以来千年の時間をかけて「世俗」から乖離したから現存できているといえる。

グローバリズムという新しい全体主義にさらされているヨーロッパでは、クラッシックの衰退著しく、伝統的な家庭教師による強制を伴うな英才教育・学習も途絶え、逆に伝統にはない近代国家として、「国民育成」を目的とした国家管理の「公立学校」へ通うことが強制されてきた。

それが、新しい全体主義にも利用されて、「公立学校」が、全体主義洗脳教育の場になっているのである。

こうしてみると、「雅楽」があることの価値がわかるというものだ。

フルトヴェングラーは、『音と言葉』なる著作をのこしている。
「雅楽」については、『SHOGUN将軍』の音楽を手がけた石田多朗氏が、興味深い動画をあげている。

この両者の主張を、ぜひともご覧あれ!

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