ホワイトハウスでの大げんか

世界が注目しているウクライナの停戦・和平がどうなるのか?について、2月28日のホワイトハウスが揺れた。

オーバルオフィスでの首脳会談が、すべて報道陣に公開されているなかでの「歴史的口論」という事件になったからである。

しかし、トランプ政権2.0の選挙期間中からの「大戦略」をあらかたの論者が忘却している。
米・露・中の三極構造にあって、アメリカの覇権を維持するために、露・中を接近させたバイデンのウクライナ支援の悪手から、米・露同盟による中の孤立化が狙いなのだ。

このことを、長谷川幸洋氏も指摘しているし、その根拠がキッシンジャーだと教えてくれた。

それでこの目先の「歴史的口論」についての評価も真っ二つに割れているけれど、それは、ロシアのウクライナへの特別軍事作戦がなぜ起きたのか?をかんがえるかかんがえないかのちがいとおなじで、事象だけをみて評価するのと、事象の前段からみて評価することのちがいによる、真っ二つ、なのである。

興味深いのは、「X」における日本語でのやり取りにおいても、見事に真っ二つに割れていることだ。

いわゆる、ゼレンスキー擁護派=反ロシア=親EU&英国という集団と、その逆、という構図になっている。

前日におなじオーバルオフィスを訪問した英国スターマー首相を、ホワイトハウスから追い出されたゼレンスキー氏は直行して訪ね、ロンドンの首相官邸でいつもの「全面支援」の約束を得てご満悦という絵を配信したが、ウクライナ本国の国会では「大統領解任決議」の準備が進んでいることもまた、事実なのである。

それにしても、EU=NATO側も準備していて、そのままロンドンにてのゼレンスキー氏を加えた首脳会談を開催し、アメリカ案を無視した「徹底抗戦=ウクライナ人はひとり残らず戦死せよ」を決めるという愚をおかしている。

ようは、トランプ政権2.0に、NATO脱退への絶好の口実を与える一手、となるからである。

また、EUも決して一枚岩ではなく、「X」におけるゼレンスキー氏を応援する各国首脳の判を押したようなおなじ言葉が並ぶことの気持ち悪さに対して、反抗的な首脳たちのメッセージは個性にあふれているのが特徴である。

ハンガリーのオルバン首相、スロバキアのロベルト・フィツォ首相、それに、フランスのマリーヌ・ル・ペン女史といった面々だ。

アメリカの怒りを買ったことに震える、NATO事務局長は、ひとり、ゼレンスキー氏へアメリカへの謝罪を進言するというのも、事態の深刻さを表している。
もしもアメリカがNATO脱退あるいはそれに近い判断をするようなら、小国オランダの首相を経験したルッテ氏には、「EU崩壊」のシナリオがみえるのだろう。

残念ながら、EUの女王に君臨するフォン・デア・ライエンは、ドイツ国防大臣だったことの経験を活かせないのは、はなから無能だということを世界に示している。

ときに、トランプ政権2.0は、今回のゼレンスキーの訪問を「時期尚早」として、一旦拒否していたのである。
なにがといえば、ウクライナ資源開発の同意について、ゼレンスキー氏が大揺れしてどっちつかずだったからで、合意の調印をするための訪問だ、というマルコ・ルビオ国務長官からの言質あっての許可だった。

このあたりが、ウクライナという国家の判断をする人物の法的根拠が曖昧な状態であることの弊害なのである。

つまり、国会の承認を要するのか?という一点で、暫定大統領にその権限があるのか?ないのか?ないなら誰がその権限を有するのか?が、よくわからないのである。
このことが、プーチン氏をして、たとえゼレンスキー氏との間で和平が締結できたとしても、それがウクライナ憲法において合法で有効なのか?という疑問があるという指摘に通じる。

だから、選挙をやるように求めているのだが、ゼレンスキー氏がやらないと決めていた。
しかし、ウクライナ国会が戒厳令下の大統領任期延長をこれ以上しない、と決めたので、誰がウクライナ憲法に合致する人物なのか?という新たな問題になっているのである。

しかし、そうはいっても現実に、戦闘は続いている。

ウクライナ人もロシア人も、現実に死傷者を出し続けているのである。

つまるところ、これ以上犠牲者を出したくないトランプ政権2.0として、とにかく停戦させるための説得に、常識をもってあたったら、相手が異常なまでの非常識だった、ということであったし、これを歓ぶ英国やらEUの態度こそがもはや悪魔的なのである。

そんな悪魔の理屈を支持する日本語話者の「X」投稿を読むにつけ、日本政府によるプロパガンダの成功だけがみえてくるのである。

なんにせよ、トランプ政権2.0は、一致してゼレンスキー氏を相手にしないことを決めたはずで、米・露二カ国による和平を追求することになろう。
EUとNATOは呼ばれない。

安全保障は、米・露による共同資源開発の経済利益の追求が、軍を動かす必要がないことを示して、これ見よがしとするにちがいない。
つまるところ、いつか聞いた「北風と太陽」の話でいう、北風がEUの手法で、太陽の手法が米・露だと世界に見せつけるはずである。

さっそく、プーチン氏がウクライナではなく、ロシア国内の資源開発について、トランプ政権2.0と協議する用意があると発言したのもこのことを示す。

なお、前戦でのロシア軍の占領地が急拡大しているのは、ウクライナ軍に厭戦気分があふれて、司令部の命令に従わず逃亡あるいは投降が相次いでいるからだとかんがえられる。
おそらく、腐敗した政権の私欲のための駒にすぎないと兵が気づいた現象である。

おなじことが、わが国の大戦末期にも起きたことなのである。

それにしても、「軍事オタク」といわれてきた石破首相の3日、衆議院予算委員会における自民党・鈴木英敬(本人初の質問)議員への答弁は、「報道で見る限り、なんでこんなことになったんだという思いはございます。私ども(日本政府)として、どちらの側に立つと言うつもりは全くありませんが、とにかくG7が結束していくことが何より大事である」であった。

このすっとぼけた答弁は、おそらく「歴史に残る」だろう。

なお念のため、国会答弁とは、国会がわが国の「国権の最高機関」と憲法41条にあるとおりなので、これ以上の政府としての「公式見解」はなく、そのまま「法」と同等の重みとして解釈がされることに注意がいる。

マクロンやスターマーと同様にホワイトハウスで直接会見しているのに、「裏切り者」としての確信的な答弁をしたことは、アメリカ側にも「公式」として受けとめられる当然となる。

さて今後のアメリカの行動を、及川幸久氏が解説している。
・バイデン政権の武器供与停止
・ロシア軍情勢の情報提供の停止
・ウクライナ軍が採用した「スターリンク」停止

最後の「スターリンク停止」というオプションは強烈だ。

イーロン・マスク氏の会社が行う衛星通信事業であるが、無線、を用いるために、物理的通信回線の敷設を要しないから、通信について途上国並みだった東欧圏ではこの方式で、ワープスピードで西側に追いつき、追い越したのである。

よって、もしも停止となれば、ウクライナ軍は正規軍としての組織活動が不可能となる。

しかし、このことは世界の通信安全保障への脅威と認識されることにもなるので、スターリンク事業の終わりにもなりかねない。

ところで、スノーデン氏が公表した、アメリカ製の全ハイテク兵器に搭載されているという、始動スイッチを作動させないシステムも、アメリカに逆らうと「一斉ボタン」によって機能しなくなるようにできているという。

わが国が大量購入しているミサイルシステムから航空機や艦船など、全部が停止する可能性があることに匹敵する。

外交と戦争は直結しているという、クラウゼヴィッツの『戦争論』をそのままに、トランプ政権2.0によるゼレンスキー氏への丁寧な説明は、まさに究極にこれがある、といいたかったにちがいない。

戦争の最大目標とは、敵の無力化、なのだ。

そして、トランプ政権2.0が「宿敵」と設定しているのは、あくまでも「中」であって、「露」ではない。

ヨーロッパ首脳と日本政府の無知とは、クラウゼヴィッツを忘れている絶望なのである。

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