絶望的なアメリカ製造業復活

かつて作っていたモノが作れなくなる。

これは、技能をないがしろにした、科学万能主義の末路である。
技能の「能」とは、人間の能力のことで、突きつめれば「手仕事」のことである。
よくいう技術とは、言語化できる点で技能とは一線を画すのである。

人間のやること、特に「職人仕事」の多くは、じつは言語化できない。

このために、むかしから「見て盗め」といわれてきた。
「真似る」ということではあるが、何度も見て確認してもなかなか真似ることもできないのが現実なのである。

それに、人間は同じことが繰り返しできないものだと、スポーツ選手なら実感するだろう。

だから、高度な製品ほど最後には技能が要求されるもので、自動化されてもその粗い仕上がりを修正することができるのは熟練工の人の手なのである。
企業は、雇用条件が厳しい熟練工から非熟練工へとシフトさせたが、そのバランスが崩れた瞬間に、品質面での後退を余儀なくされた。

じつは、発展が遅れていた共産国が短期間で「世界の工場」になれたのには、余り出し始めていた熟練工が存在していたからで、賃金の相対的な安さが第一条件ではなかった。
それを、オフィスでスーツを着ている経済学者が勘違いして、人件費の安さを第一条件として喧伝したのである。

これを、さらにまた、製造業の本社ビルの最上階でふんぞり返る経営者と、巨大資産を持っている株主が結託したので、アメリカ国内の製造業は進んで衰退の道を選び、実業から虚業へとシフトした。

これぞ、GE(ゼネラルエレクトリック)を復活させたとして有名になった、ウェルチ氏の金融帝国化ではあったが、その後は見る影もなくなって、昨年の24年に大幅分社化による解体で、ようやく本来の「製造業」としての姿に戻りつつある。

だが、アメリカの全部の製造業がこうはいかない。

トランプ大統領が、わが国の造船業に海軍艦船の発注をいうのも、いまや原子力潜水艦も空母も、アメリカで製造が困難になっているのである。
むろん、戦車に至っては、もはや一台も製造できない。
ロシアが年間1000台の製造をしているのとは大違いだ。

いまや主力兵器となったドローンの製造でも、アメリカは絶望的貧弱さである。
ロシア軍は、イランから最新のドローンを輸入していることがわかっているが、そのイランは理科系学生を大量にアメリカの主要大学へ留学させていた。

トランプ政権2.0が、国家安全保障に脅威として、これらの国々からの留学生ビザを無効とした事情がこれである。
それで、日本の自公政権は、アメリカから追い出された学生の受け入れを国立大学を中心に表明させたのだった。

これも「反トランプ」政策の一環である。

「独立行政法人」となったので、いまや「国立」とは名ばかりの、運営費を稼ぐ必要に追い込まれているから、補助金をチラつかせれば政府のいいなりになるのが「国立」になったのである。

かつての造船大国のわが国も、アメリカ海軍の軍艦を大量受注できるのか?わからないのは、症状がおなじで「熟練工不足」という、人間の寿命にも関連する「性(さが)」の問題があるからだ。

伝統工芸品の分野で起きていることは、先端的な工業分野にも蔓延しているし、果ては農業技術しかりなのである。
米や野菜の栽培技術は、じつは生易しいものではない。

ひとつアメリカに可能性があるとすれば、読み書きのできない若者が大量に社会に出てくるので、彼らを徹底的な再教育で、「熟練工」に仕立てることである。
残念ながら、こうした若者たちは、犯罪にも手を染めるのが早いので、少年刑務所を強制的職業訓練校に変換することで「数」の確保は可能かもしれない。

最大のの懸念は、その講師にあたる本物の熟練工が絶えてしまったら、絶望なのである。

時間との闘い、これが本質である。

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