貧相なビル群が量産される時代

バブル期を象徴する「廃墟」は、地方のはなしばかりではない。
ちゃんとした、「無惨」が、むしろ東京にあるのは、「廃墟っぽい」という生半可な状態で生き残っていることにある。

たとえば、「カレッタ汐留」。

このビルは、正確には「電通本社ビル」の一部をなしている。
1999年に着工し、2002年に開業した。
だから、正確には「バブル後」の失敗遺産となっていることが、あたらしい、のである。

なお、ここはふたつの権威ある賞を獲得している。
そのひとつは、例によって、経産省から移譲された「公益財団法人日本デザイン振興会」なる団体がやっている、「グッドデザイン賞」の2003年度受賞だ。

もうひとつは、一般社団法人日本建設業連合会の第45回「BCS賞」の受賞である。
BCSとは、Building Contractors Society のことで、そのまま「建設業協会」の英語表記なのである。

さすが、電通、といったところだった。

ところが、その電通はネット広告事業における致命的な経営難の時代を迎え、さらにコロナ禍での社員のリモートワークによる出社率をさげたことで、かくも広大なオフィスを必要としないことでの「売却」と本社の「賃貸」という経営判断にいたった。

それが2021年のことであった。

テレビ業界に君臨してきた電通の凋落は、そのままスポンサーの政府依存となって、政府広報(機関)としての役割を担い、事業復活の兆しを自ら放棄したのだった。
歴史的に政府広報機関であることを表にはしていなかったが、臆面もなく裏の顔を露わにできるのは、組織内部で育成された人材の歴史認識(ここでは「社史」)を基礎にした発想の薄さ(あるいは「素朴な素直さ」)をそのまま表現しているのである。

さて、オフィスビルに通勤する人数の激減は、「商業棟」を直撃した。
これが、生半可な営業を続けている状況の原因だ。
ゾンビ化したと評価されるゆえんで、いわゆる「複合開発」の初めての「末路事例」として存在する皮肉となった。

これは、都心だから安泰、という神話を壊す最初になるのだろう。

ちなみに、「複合」というのは、賃料をもってさまざまな業態の店舗を入居させる方法で、一応のエリア分けがされている。
物販エリアとか、飲食店エリアとかが典型的だし、オフィスもエリアとして存在する。

すると、いま都内やらで新築・開業されている大規模再開発プロジェクトのほとんどが、このタイプであることに気づく。

業界はぜんぜん懲りていないのである。

もちろん、ここでいう「業界」とは、オーナー=発注者である「不動産デベロッパー会社」を主として、これを受けて設計・建設するのが「ゼネコン」という昭和からの決まりごとになっていることをさす。

オーナーは当然ながら「採算性」を重視するので、「複合施設」であることが、金太郎アメのごとき「ワンパターン」となるのである。
ここに、宿泊施設(エリア)も加わるのは、まったくバブル期の発想のままなのである。

しかし、地方都市のショッピングセンターも同様な「複合施設」だから、全国にこのワンパターンがあるし、海外旅行に行けば、世界の主要都市でおなじパターンの施設がどこにでもあることに気づく。

しかも、テナントまでワンパターンで見なれた「世界ブランド」ばかりなのである。

こうした「フラット化」も、グローバル全体主義のひとつの帰結なのである。
まったくその土地の特徴がない無機質さは、旅の楽しみさえもひとびとから奪っている。

歴史的なビルが、かえってその豪華な装飾やデザインで目に止まるのは、こうした汎用的な建物群のなかに咲く花のように見えるからで、だからといってその古さゆえに家賃が安いということでもない。

なんのことはない、「利益」については、むかしの会計方式が、いまよりもずっと儲かる建築を推進したのである。

「利益とはなにか?」を、ドラッカー式にかんがえていないことが、いまの貧相なビル群を世界で量産しているといえるのである。
それが、「世界会計基準」だという冗談のような本当の結果なのである。

1929年=世界大恐慌が起きた年に着工された、「エンパイヤーステートビル」は、1931年に竣工した、恐慌前バブルの遺産ではあるが、「当時らしく」格調高いアールデコ調の装飾が目立つのも、いまのビルとはことなる豪華さを放っている。

100年を現役でいられるビルは、戦後の建築であるのだろうか?

カレッタ汐留は、その可能性が低いが、これだけではない、ことに注視してよいのは、「タワーマンション」にも適用されるからである。
居住権が発生するゆえに、複合施設とは次元のちがうスクラップ困難がある。

これも「大量生産」の残滓となることだろう。

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