TI-Nspire CX CAS の教科書

本稿のタイトルは、いわゆる「教育用グラフ電卓」のメーカー名(TI:テキサスインスツルメンツ)と組み合わせた機種名のことだが、機種の方は初代より数倍も処理能力が強化された「CXⅡ」がすでに発売されている。

なお、最後に表記されている「CAS」とは、「数式通り:Computer algebra system」のタイプを示すので、正確には「CAS機能がない」タイプと2種類が販売されている。
アメリカの各種資格試験に持ち込めるのは、『CAS機能がない機種に限定」となっているので念のため。

わが国を除く先進国では、数学や理科(物理、化学)の授業では、「CAS機能付き」の方が使用されているふつうがある。

このブログでは、ずいぶん前から我が国で「教育用電卓」の普及が一向にされないことをボヤキながら書いてきた。
どうやら、「予算」が少なくすむことが、利権化した教育関係者には「うまみ」がないかららしい。

それで、より高額なパソコンやタブレットを子供に使わせることをやっている。

もう一つの理由は、日本の数学や理科の教師に、「電卓」が妙に不人気なのである。
これは、生徒に不人気なのではないことに注意したい。
じっさいに、「高専」では積極的に利用・運用されている。

どうやら、数学と理科の教師は、こうした道具を授業に用いる方法を知らないらしいし、例の強制をともなっている「学習指導要領」から外れることを、公務員の業務管理の立場から制限されてもいるらしい。

むかしは「私学」なら自由だったが、いまや「私学助成金」と引き換えに「自由を放棄」させられてしまったのである。

ではなぜに、わが国以外の先進国は、こうした道具を授業に採用しているのか?と問えば、生徒の理解を促すために尽きる。
面倒な計算を紙と鉛筆で延々とするのはやめて、それは機械にやらせ、人間は「論理」をしっかり習得すべきだという思想からである。

こないだ書いたように、数学は決して理系ではなく、「論理学」に含まれるからである。

ようは、日本の場合、関係者のおとなたちの都合で、生徒たちの都合ではない。
生徒の成績が伸びないで悪いままでも、それはその生徒のせいで、教師の教え方のせいではないと発想するから授業の品質を改善する気がない、

さて、わたしの手元には初代の、TI-Nspire CX CAS がある。

この恐ろしくなんでもできる「グラフ電卓」は、じつは、ハンドヘルド・コンピュータであるので、ほぼほぼ厄介な計算ならなんでもこなす。
この「なんでもできる」が、操作法の複雑になって、どうやって使うのか途方に暮れるのである。

しかし、輸入総代店の社長にして数学者の中澤房紀氏が、『社会とつながる統計』を出版された。
こないだ頂戴したので、これをみながら機械をいじっていると、だんだん慣れてきた。

ネット上に、「使い方」の膨大なPDF(414枚)が、一関高等専門学校名誉教授の梅野善雄先生によって出されている。
この両者を見ながらの、「独習」をやってみたのである。

なお、梅野先生には、『いつでも・どこでも・スマホで数学!』が出版されていて、これはアンドロイドで動く「Maxima」という計算アプリの使い方を解説したものだ。
おそらく、高専の学生に、手軽に利用するようご指導なさったにちがいない。

統計といえば、「エクセル」を使うものや、もっと汎用的になるとパソコンのオープンソフト『R』が有名で、それぞれに多数の教科書もある。
しかし、中学校を卒業して入学する「高専」では、TIのこの機種一択なのだ。

それは、統計だけなく守備範囲の広さ(数学、物理、化学など)にある。

大人のための「やり直し」がついた教科書は「英語」なら多数ある中で、TI電卓と組み合わせて数学を学ぶものはたいへん少ない。

もちろん、メーカーのテキサスインスツルメンツやアメリカの大学教授(有名なのはMITの「名物教授」だったGilbert Strang:2023年に退官)の教科書は、当然にアメリカ人向(多くは高校生対象)けに出しているが、なぜか邦訳が少ないばかりかえらく高額なのである。

アメリカのこの手の教科書(理科系)がどれも、やたらに「大部冊(ページ数があってぶ厚い)」なのは、説明を省略しない、という「わかりやすさの工夫」に特徴があるからだ。
さらに重要なポイントが、「何のため?」にするかを丁寧に記述してあって、勉強のゴールを示してくれる。

だから、ぶ厚くなるけど、これを学ぶと何になるかがわかるから、読者の興味をつなぐのである。

この点で、逆に日本人研究者の教科書の多くは、えらくつまらないし、退屈だから、読破することが困難なものばかりとなっている「怪」がある。
読者の為に書いていないか、自分でもわからないのだろう。
そのつまらなさが、妙な「お作法」となっているのである。

おそらく、これからの子供は、たとえば「線形代数」を用いたデータ・サイエンスとかを使いこなせないと「まずい」状況になるのだろうけど、それに親が気づいていない可能性があり、その責任はまた、安穏と生きている祖父の世代にある。

確かにいまさら、還暦を過ぎて3万円超え(iPadアプリなら4,500円)の電卓を買って、さらに教科書を揃えて勉強したところでどうするのか?という疑問はあるけれど、ボケ防止とかという後ろ向きでもなく、なにも知らないまま朽ちていくのがなんだか癪なのである。

この意味で、生徒にTI電卓を持たせて教えていた、貴重な先生方には、是非とも「大人のやり直し」をTI電卓を使う解説書としてシリーズ化して欲しいのである。

その教科書を用いたネット動画での授業型式もあったら、絶対に観たいものである。

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