「経営者」という職業は,創業者とそうでないひとからなっている.
そうでないひとは,たいていサラリーマン経験者である.
それは,創業者の子孫でもそうであるが,ただし同期入社のひとたちよりもずっと速いスピードで「経営者」になる傾向がある.
経営は,神ならぬ人間のおこないだから,どこかで間違える可能性がある.だから,おおかたの組織は,間違えても修正できるようにつくられる.
ところが,経営が下手なひとがやると,間違いだらけなのに間違えていることに気がつかないようにしてしまう.
そして,ここが肝なのだが,自分が経営が下手だという自覚もない.
ブレーンを作る
経営がうまいひとには,たいていブレーンがいる.いなければ,座右の書がある.
これは,ナンバーツー「二番手」が要であることを意味する.
豊臣秀吉の出世物語は,初々しくも華やかであるが,晩年の悲惨は,弟秀長をうしなってからである.
中小企業だから,社内にひとがいない,と嘆く社長はおおい.
手前味噌だが,ならば外部コンサルを上手に使う手がある.
「外部」のメリットは,「内部」のひとには新鮮で,かつ,「他人」だからその分軽い.
「重い」はなしが軽くなるのだ.
予算制度を利用する
いま話題の「財務省」,かつての大蔵省が,「最強の官庁」といわれてきた理由は,「政府予算の編成権」にある.これは,いまでもおなじである.
役所は自分で稼ぐことがないから,予算の配分を得なければなにもできない.それで,大蔵省の予算担当(主計)官には,各省庁の局長級も頭が上がらないばかりか,「事業」の評価までされてしまう.そもそも,主計官は課長級だが,課長補佐級の主計官輔すら,担当省庁の活動を熟知しているのは,お金のうごきでなにをしているかがわかるからだ.
この制度を民間会社も真似て,企業内の「予算制度」ができた.
だから,企業内官僚には,最強の「予算担当者」が存在する.
かれらは,各部署のお金の使い方をしっているから,もっとも強力な牽制機関になりうる.
つまり,経営者には,みずからすすんで「予算策定に参画する」ことで,かなり正確な社内の状況を把握できるチャンスがあるのだが,「大臣」になってしまうことまで真似て,官僚丸投げを平気でするから,自社内でどんなことがおこなわれていて,どんな方向が望ましいのかも不明になるのだ.
読書が趣味という経営者が読む本
有名な企業の有名な経営者にはたいがい「座右の書」というものがある.
さいきんは,有名だが無能な経営者と,有名で有能な経営者の区別ができるようになってきた.
有名な経営者には,取材をつうじて「語録」というものが残るから,その後その会社がどうなったか?によっては,たいへん無意味な「語録」もある.これを反面教師にするというのは,あんがい有効だから,それはそれで後世の役に立っている.
座右の書のおおくが,有名な本であることがおおいし,また,難解でしられる本もある.
わたしは,名著とは,「むずかしいことをやさしく書いてある本」だと定義している.
その道をきわめた「当代一流」ほど,専門をやさしく解説できる技量をもっている.だから,エセ一流を見ぬくには,当人の代表的著作で判断できる.むずかしいことをむずかしく書くのは,だれにでもできるからだ.
経営の見通しをイメージできる良書
日本が世界に恥じるものはどんなものだろう?とかんがえたら,「英語」にいきついた.
かくも不得意な分野はほかにあるだろうか?
だれもが,あきらかに学校の英語教育は「失敗」あるいは「効果なし」とおもっているだろう.
外国人が,ほんの数年でかなりの日本語力を得るのに,われわれは,何年やっても成果がでない.
それで,おおくのできないひとは,すくないできるひとをみて,「語学の才能」がある,という.
まるで,ダメな会社がなにをやってもダメなようではないか?
ということは,どこかがおかしいのである.
どこかが間違っている,とかんがえるのがふつうだろう.
すくなくても,わたしたちは「日本語ができる」から,言語能力がゼロなのではない.
さいきんの「学習参考書」に良書がある.
たとえば中学英語の解説書のなかには,はるか遠くの大学受験もとおりすぎて,社会人になって英語を駆使できる状態から演繹して書かれているものがあるのだ.
だから,これまで教えてもらった説明とずいぶんちがうことが書いてある.しかも腑におちる.
「基礎は大切」だとだれもがいうが,「基礎」とはなにかを深くかんがえないと,あんがいと「歪んだ基礎をしっかりつくる」というおどろくべきムダな努力を強要されることになる.
まちがった基礎のうえに建てた建造物は,ざんねんながら価値がない.だから、取り壊しの対象になる.
建築の基礎は,完成から演繹してつくるものだということをわすれてはならない.
つまり,経営者は,将来像のイメージから演繹して現在の状態を改善することが仕事なのだ.
そのイメージができない,不得意だ,というひとは,わかりやすいと話題の中学英語の参考書をご覧になるとよいだろう.