前に、モバイルPCの不満を書いた。
このなかでも触れたが、入力機器として不可欠の「キーボード」についても書いた。
どうして「英語キーボード」というのか?
これは、日本人が「日本語キーボード」を開発したからだ。
世界にはたくさんの言語があるから、それぞれの言語におうじたキーボードがつくられている。
だから、いきなりヨーロッパのホテルで、たとえばロビーに設置してある自由につかえるパソコンだって、国によって日本人客がとまどうのは、キーボードがその国の言語設定をしていると、なんだかわからない文字を入力させられて、ぜんぜんつかえないことになるのである。
日本の図書館の蔵書検索も、「かな入力」がデフォルト設定されていると、「ローマ字入力」ができないからとまどうことがあった。
まことに「パーソナル・コンピューター」とはよくいったもので、自分用のパソコンだから、じぶん以外の多数で共用するとなると、いちいち面倒なことになる。
「音声入力」がずいぶんつかえるようになってはきているが、あいかわらずの「主流」は、いまだにキーボードからの入力である。
思考のスピードと合致するからであろう。
キーボードといえばタイプライターの時代から、「英語入力」に適したものを指すのが、本来なのである。
ところが、タイプライターでは絶体にできない、ローマ字入力しても「日本語変換」ができるというのが「コンピューター」といわれる「電子計算機」の特徴で、これが、一般事務機としての普及の最大要因になった。
どうしたら日本語を楽に入力できるのか?
さまざまな方式がかんがえられた。
いまや博物館の展示品になっている「和文タイプライター」は、公式文書作成に必須だったけど、盤面にひろがる漢字を一字一字選択するために、訓練と技術を要したものだった。
それで、「ワープロ」という日本語文字入力に特化したコンピューターが、「パソコン」という「多機能機」よりも人気があった時代があった。
なぜかといえば、「パソコン」は「ソフトウエア」をインストールしないといけないという「手間」があったし、初期のころはまともなソフトと未完のソフトが入り乱れて販売されていて、「定番」すら形成されていなかったのである。
もちろん、ワープロも、メーカーごとに「規格が違う」ため、保存したデータの汎用性までなかった。
むしろ、ユーザとしては、メーカーごとにあった「入力方式」を買っていたのだ。
そこで登場したのが、「親指シフト」方式で、これに「ひらがな入力」と「ローマ字入力」というほぼ三種類の入力方式による「専用機」がつくられたのだが、「ひらがな入力」と「ローマ字入力」は、「切替」によってできる工夫でおなじキーボーでもつかえることになった。
ことにローマ字入力が批判されたのは、キーを押す回数の不利、であった。
これだけをとらえれば、圧倒的なのは「親指シフト」方式であるし、つづいて「ひらがな入力」も有利だ。
根強い「親指シフト」派はいまでも存在するけれど、ワープロが衰退してパソコン全盛の時代になれば、メーカー独自の「親指シフト」は同時に衰退してしまった。
それで、本来「ひらがな入力」のために開発された「日本語キーボード」が、ローマ字入力「も」できたから、いつのまにかスタンダードになってしまった。
しかも、「日本語」と「英語」という「枕詞」が区別のための「記号」になったから、あたかも「日本語キーボード」でないと日本語入力ができない、とか、「英語」は苦手だし英語なんて関係ない、という感情が機能の本質を無視して普及したとかんがえられる。
けっきょく、ローマ字入力が主流な方式になったのにもかかわらず、それにもっとも適した「英語キーボード」ではなく、あいかわらず「日本語キーボード」が「標準」になっている理由はなぜだろう?
ここにも、社会の「慣性」があるのだろう。
なんとなく、キーボードといえば「日本語キーボード」に決まっているという決めつけは、「思い込み」でしかないし、パワーユーザーたちが「英語キーボード」の有利さ、便利さを強調して発信しても、どういうわけか「響かない」のである。
つまり、普及しない。
ここに、強固な「壁」をかんじるのは、まさに「社会の壁」なのである。
ネットでしらべれば、英語キーボードと日本語キーボードのちがいがいくらでも解説されている。
もっとも重要なポイントは、左右の「まん中」が、日本語キーボードは「ズレ」ていることだ。
それに、最も押下頻度がおおい「エンターキー」が、日本語キーボードは二段をつかって大きく見えるが、じつは右手の小指で簡単にはとどかない位置にある。
英語キーボードは一段しかないが、横に長く押しやすい位置にある。
この二点が、圧倒的に英語キーボードの有利さなのだ。
かくいうわたしも、英語キーボードの有利さに気づかないでいた。
使ってみれば、「わかる」のであるが、パソコンのキーボード設定を変えることと、カッコや¥マーク、@など、若干のキーの場所がことなるので「慣れ」がいる。
さいきんでは高級万年筆の人気が復活しているというが、「書く」ということなら、キーボードへのこだわりも重要だ。
いちどつかい慣れたら、もう手放せないキーボードだって存在している。
パソコンをもって外出するときに、コンパクトな英語キーボードも欠かせないのは、重量をこえた便利さ使いやすさがそうさせるのである。
高級でコンパクトなキーボードで有名なメーカーから、先週、数年ぶりの「新製品」が発売された。
欲しい、のは「マニア」だけではあるまい。
しかし、いまどきならPC本体が買える値段ではある。