20日にアップされた「THE CORE」で、伊藤貫氏が「本日発表のアメリカ外交問題評議会WEB論文に、オクラホマ大学のふたりの専門家が、『America’s Allies Should Go Nuclear:同盟国に核を持たせろ』という論文が掲載された」ことを知らせてくれている。
ここでいう「America’s Allies:アメリカの同盟国」に、日本やドイツが含まれるのは当然だ。
最大の同盟国たる英国は、とっくに核保有国である。
これは、アメリカから、わが国の隣国に対して投げられたメッセージに他ならないが、同時に、わが国政権与党にも投げられたものだといえる。
むろん、このような論文が発表された、タイミングの意図的なことを強調したいのである。
日付は、November 19, 2025、となっているが、いつ書かれていたかはわからない。
なお、既存野党からのパブロフの犬的なお決まりの反発は織り込み済みだろう。
世の中というものは、大方フィクションが現実になる理不尽なものであるが、いよいよ、本人の意思とは関係なく、東洋の「鉄の女」と祭りあげられている高市政権を、彼女がこれまで自分から誤魔化してきた方向のベクトルを合気道的に利用されて、うまいこと外国からの誘導がはじまろうとしているのである。
おそらく、赤い官僚が支配する隣国では、過去のワンパターン(柔道的な力技)が破れたことに驚いていることだろう。
わが国の左派も(ビジネス)保守もおなじで、核武装?なんでやねん、の愚問になっているはずというのが伊藤氏の見解である。
そもそも論ではあるが、アメリカが世界覇権を意識するようになったのは、一体いつからであるか?をかんがえないといけない。
アメリカで内向きの「モンロー主義」が打ち出されたのは、1823年といまから200年も前のことだった。
状況はいまとぜんぜんちがっていて、アメリカ自体が出来立て(建国は1776年)の農業国だったし、先をゆくヨーロッパからの干渉に辟易としていたための「相互不干渉」がよいとされていたことに原因がある。
ちなみに、西部の端に「カリフォルニア州」ができたのは、1850年なのである。
それが逆転するのは、アメリカの鉱工業が大発展するまで待たなければならない。
タイミング的に、第一次世界大戦がターニングポイントとなっている。
なお、第一次世界大戦でいう「世界」とは、ヨーロッパのことで、この時代にそれ以外の地域を「世界」とはいわない。
ようは、「ヨーロッパ中華主義」だったのである。
ところが、この初の大規模な総力戦争で世界の中心にあったヨーロッパが破壊によって衰退してしまって、シーソーのように片方のアメリカが台頭した。
それで同時にここから、アメリカの覇権主義が勃興するのであるけれど、正しい順番は、戦争ビジネスの目覚めでアメリカがこの戦争に関与したのである。
ちなみに、わが国の「戊辰戦争」で大量に使われた「新銃器」は、アメリカの南北戦争(「Civil War:内戦)で余ったものを幕府軍・新政府軍ともに輸入したことがわかっている。
これで、わが国も、「戊辰戦争」という無用な内戦をやって犠牲者を大量につくったのである。
そうやって、彼らがカモッた挙げ句、ついに仮想敵国と認定したのが、日本帝国であった。
それが、『オレンジ計画』(=日本占領計画)で、以来、アメリカは日本の絶対的敗戦を画策し、1945年に目的達成したのである。
戦後の日本と日本人がどうされたかというのは、ミシガン大学の歴史学者ジョン・ダワーによる『敗北を抱きしめて』に詳しい。
「オレンジ計画」の実行に、日本(人)側からの、予期せぬもののアメリカには悪くはない化学反応(「反米」の反発ではなく「親米依存」)が起きたために、これが双方で「癒着」してしまったのである。
しかし、そのアメリカが「東西冷戦の勝利」に泥酔し、傲慢に走って、「全球」という意味の地上世界で無駄な介入に奔走した結果、まったく意図せざる多極化世界が出現し、アメリカ一極によるコントロールが軍事的にも財政的にも、製造産業的にも不可能となったのである。
トランプ大統領が、アメリカ製造業の偉大なる復活を口にするのは、J.D.ヴァンス副大統領が書いた自叙伝『ヒルビリー・エレジー』のとおり、強烈な産業衰退と工場労働者の没落の現実に震えるしかないからである。
ここに、「自由貿易主義=リカードの比較優位絶対主義」のヤバさがある。
いまも自民党の政治家たちが金科玉条とする「対米自由貿易」とは、じつは「反トランプ」の理論的対抗なのであるが、そうやってわが国の製造業も衰退させた(=中間層の没落・格差社会の製造になった)ことに、なんの痛みもないから、1秒でもはやく政権から追放する必要があるのである。
そこで、アメリカのプレゼンスを残しながら、何がベターなのか?(もはや「ベスト」ではない)を問うたときに、「日本&ドイツの独立=核武装」という連立方程式の隠されたもう一つの解が得られることになって、いよいよ戦後秩序の変更が現実になろうとしている。
これは、自動的に両国を敵国と規定する「国連体制」の終わりでもある。
トランプ政権が、ことごとく反国連の立ち位置にあるのは、思想背景だけでなく、現実の世界秩序が「戦後」に終わりを告げているからでもある。
しかも、国連は、ロシアを制裁することに血まなこを挙げるから、とうとうロシアもアメリカと歩調をあわせて、反国連になっている。
対して、あくまでも「有職故実」となっている、『国連憲章』や、『日米地位協定』あるいは、国際社会における「国際法」の、絶対的遵守を誓っているのが、法体系の枠内でしか発想してはいけない掟と性癖の両方がある、日本の官僚たちと、難関大学に入るための規定枠内思考(学習指導要領)に染まりきった「エリート」の視野狭窄症の重篤な症状なのである。
このことが、反米(反トランプ共和党であって、親民主党は変わらない)&反ロシアの立ち位置を取り続ける、わが国の硬直性の原因で、それがまた、社会に閉塞感をもたらしているのである。
トランプ政権を含む、アメリカの発想が柔軟なのは、官僚ではなくて良くも悪くも外交評議会などのシンクタンクから派遣される大統領のブレーンたちのリアリズムが源泉になっているからである。
今回の論文をだした、「foreignaffairs:外交評議会」こそ、じつは反トランプ=グローバル全体主義の牙城ともいえる組織である。
それが、あたかも一大方向転換したようになったことが、事件なのである。
残念ながら、わが国に、アメリカ風のシンクタンクはこれまで存在しないために、「救国シンクタンク」なるネット上の団体が、小さな気勢を挙げているに留まっている。
昭和100年、戦後80年の今年の終わりに向かって、大きな転換点にいることは確実なのである。

