「猟犬がダメになる」とは

前に、「ペットの犬は使役犬にならない」、と書いた。
いわゆる、「使役犬」とは、人間が使役する犬のことで、警察犬や軍用犬、猟犬、あるいは麻薬取締犬から、盲導犬までさまざまな「使途」がある。

「愛玩」という「使途」の犬が、ペットだけれども、あたかも人間と同格に置かれた犬には、人間の想像以上のストレスがかかって、気の毒にも精神病を発症してしまうこともある。
ペットも人間界の住人だから犬を支配するのは人間でなければならないのにもかかわらず、犬が主人であると勘違いしてしまうことが原因だとされてる。

だから、ペットの犬には、正しいペットにさせるための調教・訓練が必要になるのだけれど、このことの重要性すらしらないから、その方法に興味もない飼い主がたくさんいる。
それでもって、犬をコントロールできなくなって、「動物愛護センター」における殺処分が絶えないのである。

酷いめにあうのは、「いつも」犬の側なのだ。

猟犬は、犬の特徴・特性となる能力を人間が利用するために訓練される。
一口に「猟」といっても、いわゆる、「獣(けもの)」と「鳥」に分類できる。
獣には、鹿やイノシシが、鳥には、やまどり(キジの仲間)や鴨が代表的な獲物である。

犬の特徴は、まずは「嗅覚」である。
そして、「聴覚」。
さらには、運動能力であって、狩猟・闘争本能もある。
もちろん、背後には人間への忠誠心も求められる。

すると、猟犬にも二種類ができて、獣用と鳥用となる。
なぜなら、獣の臭いと鳥の臭いがことなるからだ。
当然、獣の臭いのほうが強く、鳥の臭いは弱い。

だから、鳥用の訓練をした犬を、獣が多く棲息する山に連れて行くと、獣の臭いに負けてしまう。
鳥を追わずに、獣を追ってしまうのだ。
これで、鳥用とした訓練も台無しになる。

こうして、猟犬がダメになるのである。

だから、鳥撃ちの猟師は、獣が多く棲息する山を嫌う。
やまどりは、そもそも滅多にお目にかかれない鳥なので、やまどりを狙う猟師は、ただ獲物がとれればそれでいい、という感覚はない。

犬が獣の臭いに反応したら、とにかくその場から犬も一緒に離れないといけない。
獣の収獲に興味がないのだ。
むしろ、これまでの訓練がダメになることをおそれる。

猟犬がダメになるとは、餌代が無駄になるという意味になる。
猟犬は、けっしてペットではない。
けれども、ダメになったからといって、動物愛護センターに連れて行く猟師もいない。

そうなると、猟犬の子どもを得るために使うのである。
信頼ある猟師同士で話し合って、自分の犬を掛け合わせる。
優秀な猟犬にも、血統があるのだ。
この信頼に、動物愛護センターを利用しないという意味もある。

ちゃんとした猟師は、犬を犬死にさせない。

そのかわり、狩猟目的という一線もけっして超えないから、ぜったいにペット扱いしない。
この「けじめ」を、犬も理解している。
猟場に到着したら、犬も勝手に狩猟モードにはいる。

すなわち、お仕事モードにちゃんとなって、それなりの緊張とハッスルを開始するのだ。

あるメスの老犬は、歩くのがやっとで、腰をふらつかせながら山で人間に追い越されるざまだったけど、それでも人間に獲物のありかを必死に教えていたのは、嗅覚は衰えていないからだ。
獲物を前にした記念写真には、腰が曲がった座り方で猟師の脚に寄りかかって映っているものの、顔はどこか満足げである。
彼女は、その夜に自宅犬小屋で静かに死んだ。

こいつは精いっぱいの仕事をしたと、猟師も自慢して目を細めた。

この意味で、猟犬は単機能なのである。
この単機能を維持させることも、人間の責任になっている。

やまどり撃ちの猟師は、獣の猟師が減って、害獣化による被害が増えることを深刻にかんがえている。
一方で、獣の猟師は、山で獲った獣を無駄にしない。
虐殺をしているのではないのだ。

ただし、こちらはこちらで、獲物が大型であればあるほど、獲れた獲物の運搬に体力をつかう。
山に分け入るだけでも体力が必要で、獲れたら獲れたで体力がいる。
そんなわけで、猟師の高齢化問題は、すでに絶対数の減少になっている。

猟友会に依頼する従来の「害獣駆除」が、猟友会から断りを入れる事態も発生しているのは、会員の高齢化と人数がいない、という理由ばかりだ。
地元住民のがっかりは、絶望へと変化している。
加えて、コロナ禍は、狩猟免許の講習会も中止させた。

なんだか、海洋で起きていることに似ている。
わが国は、排他的経済水域を含めると世界第6位の面積になる「大国」なのに、海洋生物の資源管理ができていない。
沿岸漁業の衰退も、魚が減って、漁師では食えないからである。

獲りすぎと、河川の汚染、それに山の荒廃によるミネラル補給の減衰が原因とされる。
山の荒廃には、林業の絶望もある。
山を管理する人間の手が、経済価値を失ってしまった。

山国で海洋国家であるわが国は、資源管理の二方面作戦を強いられる宿命がある。
猟犬がダメになる、レベルの話ではない危機がある。

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