「経済安全保障」の遅さ

自民党だって、国民一般には、なんにもしていないように見えても、なにかしているのだけれども、「民間への警告」という点では、やっぱりなんにもしていない。

組織とはそういうもので、「自律」できるのはいいけれども、過ぎたれば「ムダ」仕事の製造機になることだってある。
その調整役として、管理職の存在意義がある、というものだ。

ところが、その「管理」を強化し過ぎて「責任者の処分」を厳格化すると、責任をとらさせる立場のひとたちが、「管理職になりたくない症候群」という病を、組織ごと発病して、機能不全になる。
こうなると厄介で、「リセット」を要するものだ。

このときの「リセット」には、人事も含まれるのが「常」で、そのような組織にした張本人たる「トップの責任」が問われることになって、とうとうトップが交代するという「手」を打たないと、組織全部が自滅してしまうのである。

ふつうの組織なら、上記の手を打って組織の「延命」をはかるのであるけれど、世の中にはふつうでない組織もある。
この場合、どうなるのかは静観するしかない。
なので、「内部」のひとには精神的に厳しい時間が「長く」感じることだろう。

日本人になった、石平氏の8日の解説によると、昨12月27日、「中央党学校」の機関紙に、幹部が抜擢を拒否してはならない、という内容の記事がでたそうだ。
すると、けっこう深刻な組織内の「病」を発病しているのかと思われる。

世の中は、一個の生き物のようにつながっているもので、一見関係ないことも、関連していることがある。
それは、「国際間」でもおなじだ。
たとえば、コロナ禍や原油高などから、アメリカ国内輸送と国際海運が滞ったら、マックフライポテトが欠品するとかが起きるのだ。

米中関係が「本格的」に「悪化」したのは、トランプ政権のときからだった。
いまでは、オバマ時代以前の「ズブズブ」がわかってきた。

それで、「法治国家」としては、「立法」する。
ここで勘違いしてはならないのは、「立法」の主体は「議会」であることだ。
だから、トランプ時代の立法だからといって、全部が大統領の意思とはいえない。

もちろん、大統領には「拒否権」があるから、気に入らない法案に署名しない、という手もあるけれど、全部をやれないのは、「民主主義」が定着していて大統領の独裁を許さないからである。
これは、「法的」にもそうだけど、有権者の「世論」もある。

そんなわけで、アメリカは2020年6月17日、トランプ大統領が「ウイグル人権法」に署名して「成立」した。
ちなみに、2018年に、「2019年度国防権限法」ができて以来、中国ビジネスへの締付けがはじまったのだと覚えていていい。

それで、先月23日、今度はバイデン氏が「ウイグル強制労働防止法」に署名して「成立」したことで、「ニュース」になった。
息子が巨額資金をもらったバイデン氏は署名しないかも、といわれて上下両院とも「全会一致」で議決した議会が心配していたからでもある。

しかし、トランプ氏が署名した「ウイグル人権法」も、同時に「改正」されたのは不思議とニュースになっていない。
これには、ウイグル人の強制労働への「関与」が含まれることになった。
どんなことが「関与」かといえば、新疆綿、新疆トマト、太陽光パネルなどの製造・販売がそれにあたる。

そして、これに適合認定されると、アメリカ人でなくとも(=日本人でも)、アメリカ政府から「制裁」を受けることになる。
その制裁には、以下の4項目がある。

・米国内資産凍結(預貯金や不動産など)
・ビザ発給の取消と禁止(入国、滞在の禁止)
・行政と刑事罰(違反金、罰金と身柄拘束)
・SDNリスト掲載

最後の「SDNリスト掲載」とは、国家の安全保障を脅かすものと指定した国や法人、自然人(Specially Designated Nationals and blocked Persons)という意味のリストで、最も重要なのは、「ドル決済の禁止」という措置を受けることにある。

だから、この指定を企業が受けると、たとえ日米間の取り引きに関する決済でも、できなくなるのだ。
簡単にいえば、世界中の銀行から相手にされなくなる、ということに等しい。

もちろん、中国側も「対抗策」にあたる「法整備」(たとえば、2020年12月の「輸出管理法」がある)に抜かりはないし、組織の「締付け」にも熱心で、「賄賂」よりも「責任者の責任」が重視されている事情がわかる。
それが、上述の「新聞記事」になって現れたのだろう。

つまるところ、中国に進出した日本企業の「経済安全保障」が、きわめて「まずい」状態になっているのである。

おおかた、わが国もアメリカのような「法」をつくるべきという議論はあって、自民党政調会・新国際秩序創造戦略本部が「提案」したのが、2020年12月16日の「提言 『経済安全保障戦略』の策定に向けて」がようやく1年経って「動き」を見せてきた「遅さ」がある。

しかし、このままだと、アメリカから「制裁を受ける」ことが先になって、上述のようにその「罰則」の強烈さが、わが国主要企業の「息の根」を止めることにもなりかねないのだ。

つまり、日本政府は「伝統的お家芸」の「(企業)棄民」をやることになる。
見殺しでは済まない、「皆殺し」に匹敵する。

なのに産経新聞が5日に報じた「主要118社の7割企業が中国事業継続」と回答したとは、どういうことか?
政府ではなくて、それぞれの「企業」が、自滅的な判断の「遅さ」をやっているのは、「横並び」だからなのか?

とはいってもすでに、いくつかの企業が、独自判断で、対象となる地域や製品の「撤退」あるいは「使わない」という判断を表明しはじめたのは、「企業防衛上」の重要な(とはいえ当然の)決定と言える。
社内の調査チームが機能しているのだろう。

しかしながら、経営者自身が舐めてかかっているアパレル有名企業もあるし、なぜかアメリカでの「特定商品の販売中止」という変なことを決めた雑貨販売企業もある。

これが本当の、「情報リテラシー」の有無による違いを生むはずであるけれど、大丈夫なのか?
じつは、EUも、アメリカ同様の措置を法的に検討していると表明した。

上述の変な決定をして逃れようとも、アメリカ市場ばかりかヨーロッパ市場も失いかねないし、そんな「姑息」なことは通じない。
そもそも「決済」ができなくなるのを、なにか勘違いしていないか?
まさか、顧問弁護士が「法」のチェックをせずに、報道しない日本の新聞を読んでいるわけでもあるまいに。

だから、「遅ればせながらも、バスに乗り遅れるな」の自民党案なのは、日本企業を救うためのものではぜんぜんない、米欧と並んだ「国家のメンツ」だけなのだ。

アメリカで法が執行される6月末に、日本経済の大波乱という、まさかの事態になりそうだ。
これに、参議院選挙が一緒にやってくるのみならず、台湾とウクライナも「一緒」になったら、戦時政権が勝つというセオリーが、バイデン・岸田両政権を延命させるもっとも効果的手段というシナリオがあるけど、それは両国民には最悪である。

こんなことを、「敵」は狙っているかもしれないけれど、向こうは向こうで、「リセット」の時期にもなるかもしれず、いよいよ混沌の深みにはまりそうなのである。

正月気分も抜けて、2022年は、このままでは「やばい年」になってしまいそうなのである。

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