「効率」をかんがえる

世の中は人手不足である。
景気がとりわけいいわけではないのに、こんな人手不足はかつてなかった。
むかしは、景気がいいと人手がたらなくなるから、むやみに新入社員も採用した。

新卒の就職・採用も、景気に左右された。
これを不思議におもうひとがいないのが不思議だった。

「景気」とは、「フロー」の出来事である。
「浮いている」のだから、いつどうなるかわからない。
しかし、採用する社員は、フローではなく「ストック」(資産)である。
すくなくても、定年までは景気がどうなろうと在籍するとかんがえるからだ。

だから、自社にどんな仕事があって、それが将来どんなふうになると予想するからここで採用して補充や育成しようとかんがえることが、本来の企業側の「需要」である。

「景気」によって、採用数を増減させるというやりかたは、いわば「需要」を無視した方法であった。
もっといえば、自社内の人材需要予測をしないで採用活動をすることであった。

自社内の人材需要予測とは、経営計画における「人事計画」の骨格である。
これをしなくてよかったのは、「骨」がない。
つまり、軟体動物的な企業であるとの告白でもある。

現代の「経営の神様」的存在のひとりである、稲盛和夫氏は「アメーバ経営」を標榜されているが、上述の「軟体動物」とはいみがぜんぜんちがう。

だから、あんがい社内でつかわれる言葉に、深い意味がないことがある。
「効率」もそのうちのひとつだ。

「効率」をかんがえろ、とか、「効率」をよくしろというけれど、「現状の定義」があいまいなままだったり、「効果を測る方法」をかんがえずに実施することに上層部がなんの抵抗をしめさないことがままある。

これをふつう「文学」という。

製造業を中心にした、「理系」のひとたちの集団では、会社の決定をするにあたって、「文学」ではなく「事実」を重要視するから、そのようなひとにはバカげたことを書いているようにみえるだろうが、理系人がたくさんいる企業だからといって、社長や経営陣が「文系」であることはたくさんある。

それで、現場レベルでは「理系」の発想をしているけれども、だんだん上層に書類がはこばれていくうちに「文学」の視点からの添削がはいって、当初の提案がめちゃくちゃになるようなマンガ話は、どちらさまにも日常化している可能性がある。

これに、「絶対安全」の四文字がはいると絶望的で、その提案はしないほうがましになるが、いったんやった提案が添削されてかえってきたら、どうにもならない事態を覚悟しなければならない。

提案書を放置するというやり方も、すこしは効果があるが、不思議とそうしたばあいは「うえから」督促されるもので、なにか適当に書きたして「再提案」したことにしなければならない。

これ自体が「効率」の逆をいく「ムダ」なのだが、「文学」がすきなひとには、「ムダ」が「効率」にみえるという共通の特徴がみられる。

季節ものの「牡蠣」が原因の食中毒が発生したというニュースをうけて、むかしからシーズンになればレストランの目玉メニューにしていたある高級ホテルで、「安全性」が議論になったことがある。

それで、「生」の取り扱いの全面中止がきまったが、余計なことをいうひとはいるもので、「加熱」ならいいのか?となった。
「絶対安全」をトップが口にしたからである。
結局、なんであろうが「貝類」の提供を全部やめたことがある。

たしかに、仕入れもしないし提供しないのだから事故はぜったいに発生しない。
だから、事故対策という仕事のムダがなくなって、「効率」がよくなった。

ところが、毎年たのしみにしている顧客が置いていかれた。
「本年は『貝類』のご提供はございません」
から、すぐに主語が「当レストラン」になって、やがて「当ホテルは」に変わった。

これいらい、斬新な食材も御法度になったから、「効率」は確保されたが、魅力がなくなる、という問題が放置された。

しかし、その「効率」をはかる方法が用意されていない。
各部署の人員数はかわらないから、事故対応という発生ベースの部分が削除されただけである。

以上の例は、リスクのかんがえ方にかかわるものだが、景気がいいと新規採用をふやす話と構造がよく似ていることがわかるだろう。

メーカーならば、仕入れた牡蠣の安全性をいかに担保し、自社検査体制の確立をはかるだろう。
しかし、それが「ムダ」にみえる経営陣なら、商品ごと「廃番」にするのも経営判断ではある。

ところが,この論法が確立すると、「廃番」が拡大する。

「効率」の追求とは、広い視野をもたないと自分を痛めつけることにもなる。

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