日本化した、「自然主義文学」の代表作に、田山花袋の『布団』がある、と学校で教わる。
教えている先生が、はたして読んだことがあるのかも疑問だけれど、「ご本家」のエミール・ゾラだって読んだことがあるのだろうか?
作家名と作品名(できれば年代)を暗記すればいい、という点数主義にたてば、優秀な大学への受験を目指した学生の「あるある」で、入学後にとった「弛緩」の4年間を想像すれば、なるほど、先生自身の読後感想を聞かされない理由がわかるのである。
田山の小説における「布団」の女々しさを、自然主義として、島崎藤村の姪との関係を土台にした告白をもって完成したのが、日本版の自然主義なので、ちょっと「いやらしい」のである。
その意味でいくと、谷崎潤一郎の文壇君臨とその妻の佐藤春夫との「憂鬱」に続く「実際」が、ぜんぶ「文学」になっている。なかでも『方丈記訳』が傑出している理由だろう。
永井荷風の『墨東奇譚』とか、檀一雄の『火宅の人』も、その一線上にあるようにみえるのも「いやらしい」からである。
すると、これらの話に、わざわざ表現する材料ではない、「布団」にフォーカスした田山のセンスは秀逸だ。
田山がいたせいで、後の小説家は「布団」を登場させることができなくなった。
人間の生理としての「睡眠」は、人生の時間の3分の一にあたるので、寝て喰うために起きて活動しているともいえるのが人生なのだ。
そこで、重要な「器具」としての「寝具」が登場する。
つまり、寝具の贅沢こそが、人生時間の割り振りにおいて、もっとも重要ともいえる。
しかしながら、起きている時間の「意識」が人間の認識なので、寝ているときの「無意識」についての優先順位が下がるという「認識」をするのが一般的だ。
ここに、寝具メーカーと消費者の葛藤がうまれる。
すなわち、寝具メーカーの主張は、しごくごもっとも、なのであるけれど、消費者には「高価すぎる」ということになるのだ。
しかも、寝入ってしまったら「わからない」という主張になる。
けれども、「寝てみればわかる」という順番になるのが寝具メーカーの主張なので、ここでも消費者と「順番」がちがう。
だから、攻防戦の最先端は、この順番のちがいに集中する。
「お試し」をいう理由がそれだ。
販売の現場では、5分や10分、寝てみる、ということになるけれど、8時間寝ないと本来の「機能」はわからない。
ここが、一番の「やっかい」なのである。
さて、「高価すぎる」という点についても、ギャップはおおきい。
たとえば、10年間使えるとすれば、10万円の寝具も、年当たりでは1万円になって、1日当たりだとわずか27円あまりという「安さ」になる。
しかし、消費者の目には「10万円」が飛びこんでくるのだ。
これは、「旅館」もおなじで、初期投資額が部屋数掛ける定員という計算になるから、投資金額としては「耐えられない」とかんがえる経営者は多数どころか「ふつう」だろう。
旅館はなにを売っているのか?という根本問題を追求すれば、はなしは早いが、根本問題だから答えを出すには時間がかかる。
そんなかで、ビジネスホテルの一部が、アメリカ製の「超高級ベッド」を導入しはじめた。
スプリングの構造がちがう、いわゆる商用車でいう「独立懸架方式」で、その耐久性もちがうので、「高価」のなかでも「超」がつく。
人間、40歳を超えてくると、そこそこに柔軟性を欠くので、旅先の宿における「寝具」が劣悪だと、次回の選択肢から外れる。
とくに、ヘタってしまったベッドでの睡眠は、気がつけば「腰痛」を発症して治癒には時間とお金がかかる。
すると、それが「大きな損失」に感じるから、その施設そのものを敬遠するのである。
もしや、「その部屋だけ」だったとしても、である。
和室で布団を用いる旅館なら、敷蒲団のサイズが小さくて足が出てしまったり、枕のサイズや高さがあわないと、翌朝には「肩こり」に襲われて、数日間の難儀がある。
すると、やっぱり、次回の選択肢から外れるのだ。
もちろん、おなじ地域に上述の「超高級ベッド」のビジネスホテルがあれば、まずは予約サイトで空室確認をするのである。
人的サービス業のサービス改善の王道は、人的訓練に尽きるけど、ハードウェアとの連携が重要なので、ハードウェアを軽視することはできない。
その典型が、「寝具」なのだ。
ときに、寝具の価値は、「食」を超える。
いまどき、「おいしい」から外れる料理を提供したらどうなるかより、朝が辛い宿は評価外とされるだろう。
これが「高級」を任じる宿ならば、そこを目指す利用客の自宅には、どんな寝具があるものか?
お金持ちだけでなく、健康重視の層ならば、寝具の価値をしっている可能性が高いのである。
さてそれで、寝苦しいからエアコンをつける季節がやってきて、タオルケットでは「寒い」ことはわかっている。
薄手の「羽毛」か、それとも「真綿」か?
羽毛なら、2枚で1万円。
真綿でも生地が絹なら、2枚で40万円。
さぁさ、どうする?