「本質論」を軽視する安易さ

問題の本質を知ったところで何になるんだ?
やるべきは,とにかくいまここにある問題をなくすことだ.

よく耳にする話であって,論法でもある.
どこで耳にするのかといえば,破綻懸念先や破綻した企業のトップないし幹部の言動である.

不思議なことに,こうした企業では,その部下たちも,「おっしゃるとおり」とかんがえることである.
それは安易な発想ではありませんか?と質問すると,たいがいの従業員はキョトンとする.
それで,「えっ,どうしてですか?」というひとと,「やっぱり,へんだなとはおもいますけど,,,」というひととに分かれる.

「やっぱり,へんだなとはおもいますけど,,,」というひとがおおければ,現場中心で再生の可能性はある.
しかし,「えっ,どうしてですか?」というひとがおおいと,かなり手を焼くことが予想できるので,コンサルとしては引き受けに躊躇したくなる案件である.

問題の「根っこ」が,「本質」の本質である.
だから,根こそぎ治さないと,いつでも再発の可能性を意識しなければならず,再生プログラムにとって,おおきな「手戻り」が発生する原因にもなるのだ.

ひとは納得して行動したい,という欲求がつねにある動物で,強制を好まない.
納得がない,あまりに性急な行動を組織に強いると,「パワハラ」と指摘されかねないし,そうでなくても当初予定の結果がでにくい.
また,「卒業」して,外部コンサルがいなくなってから生じる,かずかずのトラブルに,「本質」から責めることが定着していないと,またおなじ結果になりかねない.

だから,「本質」をかんがえ,それから対処する,という手順の定着こそが,事業再生の最も重要な「本質」だといえる.
つまり,「根治」だ.

「目先の問題」とは,おおくは「問題の根」からでた「枝葉」にすぎない.
つまり,目先の問題をとにかくなくす努力とは,植木屋の刈り込み作業を意味する.
しかし,その枝葉が枯れていたり変色していれば,根や土に問題があると理解するのはプロの植木屋として当然のことである.

すなわち,目先の問題を刈り込み「だけ」で解決する努力とは,植木屋としても中途半端なはなしになるから,組織経営として成り立つものではない.
にもかかわらず,「本質」を軽視するのはどうしたことか?

ひとつは,解決までの時間と手間がかかると勝手に思い込んでしまうことだろう.
こうした発想をするひとは,過去の職業人生で,「本質的な解決」を経験したことがないか,その経験がすくない,あるいは,本質を見誤って見当違いをした不幸な経験を,いまだに「本質」からのアプローチだと信じてしまっていることがある.

「本質」をはやく見きわめて,解決策をさぐるという方法を,若いうちからやらされる企業組織で育つと,手戻りがないから根本治療なのに早く済むことをしる.
そして,同様の問題は発生しないから,組織の健全性も確保できるという,おおきなメリットをえる満足感も得ることができる.

このふたつを比較すれば,「本質論」を軽視する安易さとは,個人の資質のほかに,組織風土もおおきく関係することがわかる.
つまり,安易な組織には安易な発想をするひとが増殖するのである.
これは大切で重要な視点である.

だから,いまようのベンチャー企業を立ち上げる,正しく貪欲な経営者は,その年齢に関係なく「本質論」を重視する.
いい会社とそうでない会社を検討すれば,たちまちにこのポイントがあらわれるからである.
儲かる会社にするには,本質論を起業の最初から取り入れるから,業界でいえばIT企業の企業内研修が,本質の「抽出方法」に重点をおいているのは「ITだから」ではないことがわかる.

一方,宿泊業などの人的サービス業では,「接客」がとにかく重視される傾向が伝統としてあるから,「本質」よりも「その場の解決」が必要なのは理解できることだ.
しかし,「その場の解決」が無事終了した後に,「本質」がめったに議論されない.
こうして,受身だけの姿勢を貫いた結果,「本質」についての議論の方法すら不明になってしまうことがある.

とはいえ,それでも営業はできるから,「本質」を忘れたツケは,忘れたころにやってくる.
これが,「安易」でいられる理由である.
そして,問題の本質を追究せずに,世の中や景気のせい,あるいは意識的な訓練などさせたことがないほぼ素人の従業員たちのせいに「安易に」するのである.

バブル崩壊いらい競合会社のおおくが退場したから,いまなんとかなっている.
しかし,これからの人口減少による人手不足が巻き起こす,人件費増の必然に対応することは困難だ.
優秀な人材ほど,この問題の本質に安易な経営者より先に気づくから,けっして選ばれない職場になるだろう.

人手不足倒産とは,もはや他人事ではない.

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