銭湯で熱い湯に水をいれると怒るひとがいたりするから厄介だ.
水温計が50度を示していることもある.
源泉の熱さで有名な,群馬県草津温泉でも,湯もみで48度にして,それでも湯長の号令で入浴する時間湯があるくらいだから,監視人がいない50度の湯への入浴は危険ではないかとおもう.
熱い湯に浸かるのは,ある意味精神統一がひつようだ.
「心頭滅却すれば」の心境になれる,というメリットはあるだろう.
緊張で頭がスッキリすることは,あるかもしれない.
しかし,「過ぎたるは及ばざるがごとし」であって,けっしてくつろげないのは確かである.
数年前から「人工高濃度炭酸泉」が人気になった.
炭酸ガス,硫化水素の二種類が,人体に皮膚から影響をあたえる気体で,どちらも「毒」だから,皮膚呼吸がとまる.人体はこれではいけないと,全身の血管が毛細血管まで開いて肺からの酸素を届けようとするメカニズムがはたらくという.
これが,血管の運動になるから,高血圧などによいという.
それで炭酸ガスボンベから,こまかくしたガスを湯に溶かす方法がかんがえられた.
病院でも,高濃度炭酸泉が治療につかわれている(医療点数がつく)から,スーパー銭湯から採用され,いまでは街の銭湯でも珍しくなくなった.
炭酸ガスが皮膚に無数の気泡をつける.これが,皮膚の感覚器を刺戟するから,2度ほど高く感じるという.だから,40度を適温とすれば,高濃度炭酸泉は38度でよい.
おそらく,温浴施設のなやみは,人気の高濃度炭酸泉の提供者からみたコスト・パフォーマンスだろう.
炭酸ガスは高価である.だから,おおきな浴槽を用意すると,コストがかかる.
一方で,加温するのに2度低く済むというのは,光熱費では助かる.
利用人数と,浴槽の大きさ,温度,という連立方程式を解かなければならない.
温度を上げれば,利用者が多くても熱くなって回転がいいが,長時間はいっていたい利用者は不満を感じてしまう.
温度を適温にすれば,利用者の回転が悪くなるから,浴槽を大きくするひつようがある.
水光熱費は温度を下げた分たすかるが,浴槽が大きくなった分での比較と,炭酸ガスの使用量を比較して,それと利用者の満足度の関係はどうか,をかんがえることになる難しい問題だろう.
しかし,数ある温浴施設からリピートされて選ばれつづけるようにしたいのだから,この関係式にはさらなる検討項目がふえることになる.
この,温度を下げて長時間はいる,ということに注目したのが「無感風呂」だろう.
体温とかわらない温度の浴槽だ.
これは,はじめ冷たく感じるが,そのうち「無感」になって,いくらでもいられる.
長時間であるから,湯上がり後のポカポカ感は,これも長時間続く.
それで,むかしからあったのだろうが,このところ「ぬるい温泉」が人気になっているようだ.
ぬるいから,長時間はいっていられる.
時間があるひとにはちょうどいいだろうし,からだにもムリがかからない.
ところが,「ぬるい温泉」は,入浴専用施設であることがおおい.つまり,「宿泊できない」のだ.
仕方がないから,ビジネスホテルに宿泊して,また「ぬるい温泉」にいく.
こうして,ビジネスとは関係ないひとたちが,「温泉」を楽しむために別の場所に宿泊するようになっている.
移動は,自動車だから,離れていてもそんなに気にならないのも加わる.
温泉宿に,あらたなライバルが現れている.