金持ちがいないと成り立たない執事にも成長と身分の段階がある。
若くて修行中の見習いなら、「フットマン」という。
食器類やワインセラーの管理などを学ぶのだ。
そして、朝と昼、それに午後の紅茶の時間の用意をする。
これらは、上述のようにいえばかんたんそうだが、そうはいかない。
食器についての要求知識だけでもハンパないし、ワインときけば察しはつくだろう。
食事の用意には、エチケットもともなう。
日本なら、さしづめ「小笠原流作法」のようで、修得はたいへんだ。
日本語での教科書で最高峰に、外交官にして宮内庁式部官、高円宮妃久子さまの祖父にあたる友田二郎『国際儀礼とエチケット』がある。
また、さいきんでは、外務省儀典官だった寺西千代子『国際儀礼の基礎知識』がある。
式部官とは、まさに儀式をしきる役職で、あの「紫式部」の本業で本名ではないだろう。
日本における国際儀礼の最高位は、天皇陛下や皇族方のおでまし、だから、宮内庁の式部官にはおそるべき知識が要求される。
皇族方が関係しないと、外務省儀典官室がしきることになっている。
主人が社会的に偉ければえらいほど、こうした場に出ることがふつうになるので、執事として「しらなかった」ではとうていすまされない。
もちろん、一般人とて、正式の席というのはあんがい突然お呼ばれしたりもするから、そのときになって慌てるのである。
それにしても、「職能給」と「生活給」で給料がきまる日本とちがって、「職務給」が実質世界標準になっているから、欧米やアジアでは執事も「職務給」なのだ。
このちがいは、決定的だ。
日本で外国人労働者を雇用すると、かならずこの問題が起きるはずだ。
労働に対する対価の支払い根拠が、ガラパゴス化しているのである。
賃金の支払根拠を示せという要求だから、「職務」を明確にして、「スキル」と「単価」を示さなければならないという「手間」がかかる。
これを、外国人労働者のためだけにおこなうのか?
コンビニや牛丼チェーン店で外国人労働者を見かけるのは、これらの賃金体系が「職務給」になっていたからである。
当然、さいしょから日本人の働き手がこの制度ではたらいていたから、なにも問題にならない。
むしろ、大手牛丼チェーンで、パート・アルバイトの大量退職によって、閉店を余儀なくされた「事件」は、「職務」への不満からであったことを思いだしたい。
これは、残業にも直結する。
中原淳、パーソル総合研究所『残業学』は、おおいに参考になる。
お国のしごとは入国管理庁の入国審査だけだから、民間が強いられる「手間」とはなかみがちがう。
ましてや、入国管理『局』から、『庁』へ昇格し、職員数もふえるのだ。
この人手不足の時代に、役所が職員数をふやすのだから、よくぞ経団連は賛成したものだ。
働きかた改革の「黒船」は、じぶんたちが都合よく取りこんだはずの、外国人労働者そのものになる可能性があるのだ。
連綿とつくりあげてきたわが国独自(世界とはことなる=ガラパゴス化)の労働慣行が、外国人労働者によって破壊されることを意味するのだ。
これは、雇用側だけでなく、労働側にもやってくる。
外国人労働組合だって結成される可能性がある。
すると、かれらは、日本的ユニオンシップ制を受け入れるのか?
はたまた、「産別」に作りかえをするのだろうか?
「国別」はないだろうが、特定の国が「党」の意向でうごくことはありうる。
だから、選挙権をもたないからといって、政治活動とは関係ないともいえない。
変化はいきなりの激震ではなく、ジワジワとやってくるにちがいない。
そうして日本にやってきた働き手は、歳をとっても日本にいるのだろうか?
ちゃんと本国の口座に送金して、日本の相続税を回避するだろう。
しかも、かれらの送金手段はすでに手数料が馬鹿高い銀行間の移動ではない。
そうして、かれらの財産こそが、日本から逃げ出すキャピタル・フライトをしてしまうのだ。
昨日の1月7日から、「出国税」の課税がはじまった。
あたらしい税がくわわった。
国家は、いちどつくった税をやめることはない。
だから、たいへん長いつきあいになる。
しかし、ほんとうの「出国税」(このブログでは「出国税A」と「出国税B」とした)はまだ水面下にある。
キャピタルフライトにも課税するなら、外国人労働者たちも直撃する。
ほんとうに、この国が向いている方向がへんなのだ。
執事や家事サービスの働きてが、外国並みの賃金をえるようになるには、これらを雇用できるひとたちを増やさなければならない。
さぁ、どうする?
これが、わが国の経済問題の本質でもある。