3ヶ月前の8月に、マイクロソフトが『ウインドウズ365』なるサービスを企業向けに開始した。
以前から個人向けにもサービス提供している『マイクロソフト365』(その前は「オフィス365」と呼称していた)は、ワードやエクセルなどの定番ソフトについて、クラウド・ストレージも付けた「サブスクリプション契約」とは異なるものだ。
企業向けなので、もう利用させられているひとも多いにちがいない。
わたしは、『ウインドウズ365』の名前から、その意味がよくわからなかったけど、ようやく少し理解できたので、その記念に書いておこうと思う。
簡単に言えば、クラウド上にウインドウズがある、ということなのだが、サービスメニューをみればわかるように、CPU性能とストレージ容量がセットになって契約するものになっている。
つまり、パソコンがクラウド上にある、ということだ。
それを通信でつないで、自分の目のまえにあるパソコンで使う。
なんだかややこしいのだが、自分の目のまえにあるパソコンは、テレビの受像機のようなものにすぎない、という位置づけになる。
つまり、ロー・スペックなパソコンでも、契約次第でハイ・スペックなパソコンとして機能してしまう、という代物なのだ。
しかも、動かす、という意味は、「ブラウザ」で、ということなので、グーグルやヤフーなどが動くなら、目のまえにあるパソコンが、どんなOSなのかを問わない。
これまでなら、たとえば、Macには「macOS」という「OS(オペレーション・システム)」が入っていて、これがパソコンを制御する。
キーボードを叩くと、画面に文字が表記されるのも、ワープロなどのアプリケーション・ソフト(アプリ)が動くのも、縁の下の力持ちであるOSあってこそのことだった。
アップル社のパソコン、通称「Mac」は、その画像処理能力の高さが買われて、いわゆる、「クリエーター向き」といわれ、一般企業の事務用としてのシェアは振るわなかったし、いまでもそうだ。
ただし、ユーザーフレンドリー(使いやすい)なOSには定評があったのは確か、である。
だから、高校を出て大学生になると、入学時に、もはや必須アイテムとなったパソコン選びで、どのメーカーのどの機種を選ぶかが、最初の関門になる。
それが、Macかウインドウズ・マシンかの「2大選択」である。
おおむね、学校側もウインドウズ・マシンを推奨しているのは、学生が就職したら、まず企業で貸与されるパソコンが、ウインドウズ・マシンだと想定しているからである。
学生時代(特に文系)に、楽ちんなMacを愛用していて、社会人になってウインドウズを強制されたら、それだけでも同期から遅れをとること必定なのである。
つまり、下手をすると、人事評価にも影響してしまう。
そんなわけで、世の中はウインドウズ・マシンで溢れている。
ところが、ウインドウズ・マシンを選択した後、やってくるのはその種類の多さで、メーカー選びにしても大変だ。
リモートワークなる状況で、しかも外国に移転した工場の稼働が下がって「チップ不足」になった。
パソコンが売れに売れまくった後、今度は買いたくても物がない、ということになって、とうとう自動車の生産までも減産を強いられることになった。
Macの世界では、インテル社に依存していた(初期のMacはモトローラ製だった)のが、自社開発という「内製化」で、昨年は爆速の「M1チップ搭載」マシンが新発売されて話題になった。
ついこないだまで、ウインドウズ・マシンも基本はインテル製のCPUばかりだった(今は、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ (AMD)製もある)から、「OS]は違えども、Macとウインドウズ・マシンは、「兄弟」のような関係で、MacOSには、なんとウィンドウズ「互換」のためのソフトが「内蔵」されていた。
なので、Mac上でウィンドウズを起動して、「両刀遣い」ができたのである。
しかし、「内製化」された最新マシンではこれができない。
CPUの設計に、OSが依存しているのだ。
そこで、サードパーティーから、Macでウィンドウズを起動させる、アプリケーション・ソフト(MacOSの上で動く)が有料で発売されて話題になっている。
この発売とほぼ同時期に、こんな努力をあざ笑うかのように『ウインドウズ365』が、法人向けに販売されたのだった。
つまり、『ウインドウズ365』を契約すれば、内製化されたMacであろうが、過去のマシンであろうが、ウインドウズが動くのだ。
このことは、古いウインドウズ・マシンでも同じだし、リナックスにもいえる。
もう新規の「高速・高スペックマシン」を購入しないでいい、という意味でもある。もっといえば、そんなマシンを買うのがムダになったのだ。
「個人用」として、月額なり年額なりの使用料が安価に提供されたら、利用者はもう最新のパソコンを必要としない。
ただし、必須となるのは、クラウドと通信で結ばれていないといけない。
ということは、すべてのチップ・メーカーと、これを組み立てるパソコン・メーカーが、こぞって、マイクロソフトに「個人向けはやめてくれ」と叫んでいるはずである。
それでか、法人向けの料金も「微妙に高額」な設定になっている。
往年の「サラリーマン川柳」に、
コンピュータ ソフトがなければ ただの箱
という傑作があった。
まさに、ソフトがすべてを制するのである。