ジャパニーズ・ウイスキー・バー

ジャパニーズ・ウイスキーが人気で、手に入らない。

群馬の県庁所在地、前橋の飲食店では、ウイスキーを手に入れるのにバンドルされているいろいろを購入しないといけなくなっている、という。

なんだか、1993年(平成5年)の米騒動を思い出す。

このときは、タイ米(インディカ米)がバンドルされて、飲食店も強制的に購入させられた。

それで、調理法がわからないひとたちは、「不味い」といって捨てていたのを、アジアの貧困国から、日本は不道徳だ、と非難されたのであった。

日本政府が、タイに請願して大量買付したので、米の国際価格が爆上がりしたのである。

ただでさえ食えない貧困国は、自己民に食べさせる米が買えなくなった。

その米を、不味いからと廃棄するのは、確かに不道徳であった。

食べ物は大切にしない、お百姓さんに叱られる、という言葉でむかしの子供は育ったものだが、国内向けの話にとどまっている不可思議がある。

この非難の矛先が、日本に米を売ったタイにも及んで、広範な国際問題になったけど、当時の日本のマスコミはこれを報じなかった。

それはそれで、1973年のオイルショック(石油危機の本格化は翌年から)で、日本はなにも悪いことをしていないのに、どうしてこうなるのか?という、幼児のような言論が国内を席巻したのも思い出される。

すると、「大正の米騒動」(1918年)のときとかと農林水産省もいっているが、昭和の米騒動だってあった。

それが、1931年(昭和6年)からはじまる、「大凶作」で、東北地方では天保以来の大飢饉という悲惨になったのである。

平成5年と同様に、日照不足が原因とされる。

そしてまた、日本政府は、タイ米を買い付けて、調理法をしらない日本人は、「不味い」といって捨てていたのである。

歴史は繰り返されている。

これを隠したいがためか、「米不足」とか「米騒動」で検索しても、昭和の大凶作はヒットしない。

では、どうしていまウイスキーが足りないのか?

どうやら、輸出に回っているという。

要は、日本人が外国人に買い負けているのである。

有名な高級銘柄だけでなく、むかしなら1級酒とか2級酒にあたる銘柄も足りない。

それで、これらにもプレミアムが加算されている。

じつはわが国は、ウイスキー大国である。

どれほどのメーカーがいかほどの種類のウイスキーを作っていて、販売されているのか?は、よくわかっていない。

数百銘柄はあるといっても、それはいま作って販売している種類のことだけで、賞味期限がないウイスキーは、製造をやめたものもちやんと販売できるから、どうなっているのか?の把握が困難なのである。

しかも、大メーカーだけでなく、中小の造り酒屋がウイスキー製造にも手を出しているし、独自に樽を造り酒屋に持ち込んで詰めてもらい、これを自社に持ち帰り熟成させることで、メーカーとは別の製品になって販売されている。

しかも、それをブレンドすることで、無限大の種類が生まれるのだ。

わたしは、ウイスキーとは、基本的に熟成の時間を買って飲んでいるものだとかんがえていたが、それにはもう一つ別の価値が加わることを、大阪のジャパニーズ・ウイスキー・バーで確認した。

終売となったむかしたっぷり宣伝していた、大メーカーのウイスキーが棚に並んでいるのである。

真面目なマスターは、これを仕入れ価格連動で販売している。

なので、もしそれが2級酒であっても高価になることもある。

しかし、マスターによれば、有名銘柄の高級ウイスキーにバンドルされてついてくるものが多数だという。

つまり、下手をすると、実売当時よりも安い、ということもあるわけだ。

ボトルに詰められたら、ウイスキーは熟成しない。

つまり、50年前に販売されていたウイスキーは、たとえ半世紀ガラス瓶の中にあっても、50年ものとはいわない。

ガラスという化学的に安定している素材のなかで、アルコールという溶剤成分が化学変化を起こさずにいるから、熟成もないので、賞味期限がなく、そのままの状態を維持している。

しかし、そのボトルのラベルが、時の経過を語っているのである。

なので、熟成の時間とはちがう、わたしの若き頃の思い出を買うことになる。

熟成をしているのは、自分の方なのだ。

少ない給料で、子供時代からある町内の酒屋で買って飲んだ、2級酒が、目の前に並んでいるのは、絶景なのである。

注いでもらって舐めてみれば、パッとそのときの光景までが浮かんでくるのは、まさに魔法の水である。

うまいウイスキーには、2種類あると教えてもらった。

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