スリランカのデフォルト

1948年の英国からの独立以来「最悪」の経済危機となって、とうとうデフォルトしたのが、スリランカだ。

今月4日の政変が落ち着いたわけではなく、国民の怒りは暴動になっていて、強権をもって抑えようとしている政権を長く担ってきた、ラジャパクサ家への怨恨は深まるばかりだ。

外貨不足によって、ほとんどの物資を「輸入」に依存する、島国だから、あらゆる必需品の在庫が枯渇してしまった。
石油、電気、医薬品、食用油、などなどで、インフレが30%を超えた。

とくに電気の供給がとまって、ほぼ半日の停電が続き、赤道に近い国で冷蔵庫が機能しなくなった。
ただし、農産物についての自給率が高いことがあって、「飢餓」には至っていないことが不幸中の幸いだ。

IMFの支援融資がありそうな中で、インドと中国の両国が「援助競争」を演じ始めている。

もちろん、「IMF」の背後にはアメリカが存在する。
中国が99年間の港湾を借り受けることになったのも、インド洋への軍港を確保する、対米戦略的には重要な「楔」となったから、アメリカとしては「巻き返し」のチャンスともいえる。

だが、バイデン政権にチャンスを活かすことができるのかは疑問がある。

このデフォルトの「被害」は、債権者にとってどのくらいなのか?
対象額の元本は110億ドルと報道があって、利子の半分、元本の2割、さらに償還期間の10年程度の延長を「予想」している。

利率が発表されていないので詳細は不明だし、政府側の正式要請も未発表である。
よって、元本だけでみれば、22億ドル+利子分、ということだ。

あれれ、ずいぶんと「小さい」のである。
つまり、これが原因で、「世界金融危機」になる可能性は、ほとんどない。
元本全部、としてもだ。

これはある意味、もっともで、スリランカの人口は2000万人。
東京都と神奈川県をあわせた程度の、小国、なのである。

とはいえ、おなじ「島国」のわが国にとっては、教訓となることがあって、それが、「観光立国」の失敗事例であるからだ。
それと、「AI」との競争、という「先進的」な面もあったのだ。

名門コロンボ大学は、「会計学科」に力を入れていた。
英語が公用語でもあることから、また、民度が高い正直な島国人の特徴があったため、お金を扱う「会計人育成」を、国家プロジェクトとしていたのである。

それで、旧宗主国の英国やアメリカの公認会計士資格を取得させるための「教育熱」が沸騰していた。
また、プログラミングに優れた技術で、ロンドン・シティの証券取引所プログラムが、スリランカ製であるように、コロンボ証券取引所を、シンガポールと並ぶアジアの国際金融センターにする野望もあった。

じっさい、歴史的にアジア初の証券取引所は、コロンボ証券取引所なのであって、シンガポール、香港、東京よりも「古い」のである。
それで、政府はシンガポール証券取引所に人材留学させて、第二のシンガポールを意図していたのである。

これを支えるための、「会計士」育成が、セットだった。

スリランカの会計士は、オンラインで英国やアメリカ企業の企業会計を請け負ってもいたのだ。

これは、日本では「違和感」がある話だ。
日本で、会計士などがオンラインで業務を完遂できるものか?と。
しかし、「できる」のである。
伝票類が、とっくに電子化されているからだ。

しかも、これらの国は、わが国とちがって「制度」がはっきりしている。
企業会計だけでなく、税制も「単純明快」だ。
よって、わが国ではかんがえられない「はやさ」で、「AIとの競争」になって、すでに人間のする業務では「なくなった」のである。

これが、優秀なスリランカ人エリートの生活を圧迫した。

外国からの投資についても、中国の強引な進出で、西側が躊躇したから、証券取引が活発になることもなかった。
それで、「観光立国」しか残らずに、世界的パンデミックが襲ったのである。

しかも、欧米からの観光客の激減に対応すべく、ロシアとウクライナにキャンペーンをかけた矢先の「事件」が、ロシアのウクライナ侵攻だったのである。

三重、四重にもなる「政府の失敗」こそが、わが国への「教訓」なのである。
いまのスリランカは、未来のわが国、かもしれない。

しかして、スリランカの正式国名は、「スリランカ民主社会主義共和国」だ。
わが国の「実態」と、よく似ている。

日本が元気なら、110億ドル程度のことならば、「円借款」にして借り換えをさせてあげてもいいほど、戦争直後にはお世話になった国なのだ。
インドのパール判事が、東京裁判で「日本無罪論」を言ったのは、スリランカ人からしたら、「パクられた」理論であった。

かつて、スリランカの「親日」は、筋金入り、なのであった。

島国は、一般的に近接する大陸国家とは仲が悪い。
放置すれば、「飲み込まれる恐怖」があるからだ。
英国にとってのフランス、台湾や日本にとっての中国がそれで、スリランカにとっては、それが、インドなのである。

そのインドは、わが国にとって中国包囲網の要となっているから、やっぱりわが国が間に入るのが、「恩返し」にもなるのである。

外務大臣を長くやった岸田氏がこれに気づかない「不幸」が、日本人の心をここ一番で表現できない残念なのである。

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