ポーランドの公共交通機関のはなしを先日のブログで書いた(「むかしの方が便利だったこともある」).しりあいから「タクシーはどうなっている?」と質問された.せっかくなので,記述しておこう.
「組合」経営だった
ポーランドのタクシーは,個人事業主が集合した「組合が会社」になっている.ドライバーライセンスは認可制だ.そこで,個々のドライバーは,自分のキャリアを示して,好きな会社に応募することからスタートする.おもに採用審査では,その人物の「評判」をみるそうだ.とくに重要なのは,お客様からの「評価」で,会社ごとに管理されている情報が,業界内には「公表」されるという.
社会主義体制からの転換期の社会混乱は,この業界にも影響して,メーターを無視したり,遠回りをしたり,脅迫まがいの行為があったりと,安心して利用できない時期があったという.それで,売上が激減し,業界として存続の危機におちいった.
困り果てたまじめなドライバーたちが集まって,組合をつくり,会社のようにした.電話予約の窓口を一本化して,同じデザインのマークを車両に表示した.なによりも,利用客からのコメント情報を収集して,クレームやトラブルをデータ・ベース化したのが効いた.これによって,評判の悪いドライバーが特定できたから,組合除名という制裁が可能になった.はじめは,ある組合を除名された不良ドライバーも,別の組合に移籍することでタクシー運転手として仕事を継続できたが,だんだんと,組合間の競争がはげしくなってくると,不良ドライバーの所業が組合会社全体の「信用」に影響がでるから,業界として不良ドライバー追放キャンペーンがおこなわれるようになった.当然だが,これに利用者が賛同して,それまで以上の情報が寄せられるようになり,とうとう不良ドライバーは業界から追放されつくして皆無になった.内部では,はげしい罵倒のやりとりがあったという.
このような仕組みができたので,タクシー・ドライバーは同じ地域内なら,ほとんど「転職」の必要性がなくなった.組合内部の会議では,常にサービス向上が議論されていて,どうやったら自分たちの「組合」がお客様から指名されるようになるかを追求しているという.これぞ,正しい「競争」である.
完全出来高制になった
社会主義時代のタクシーは,当然に国家が統制していた.競争がないかわりに,賃金も低かった.サービスという概念が希薄で,乗車地点から目的地まで行く,だけだから,急ぎの用がないなら一般人はめったに利用しなかったときく.
これが,個人事業主の集合体になったから,収入は出来高制である.無線配車係が気を配るのも,公平性の維持だという.お客様がリクエストした地点にもっとも近い車がGPSでわかるようになって,だいぶ楽になった.また,運転手は降車精算のさいに「車番」記載のカードをくれる.自分を指名してください,という意味だ.忘れ物やクレームにも使えるから,自信のカードでもある.指名があっても,営業中のばあいは別の運転手が配車される.事務所に帰ると「今日,あなたのお客さんを乗せたよ」と情報交換するのも仲間の礼儀だ.
チップがいらない
ポーランドのタクシー料金には,「サービス料」が含まれている.だからチップがいらない.おどろいたのは,チップを拒否されたときだ.「表示料金どおりですよ」と笑顔でいわれたときには,一瞬わからなくなった.それで,「カード」を要求したら,「次回も待ってます」といって渡してくれた.この街で,タクシーに乗るならこの運転手さんに決めた.
「おもてなし」を「仕組み」に換えたよい例だ.