「東京オリンピックのために」といえばなんでも通る.
わが国最大の旅行会社,JTBの発表である.
それは「切り札の『エース』」ではなく,もはや「ジョーカー」のことだろう.
どういう計算で「ホテルが足らない」のかはしらないが,とうとう接岸した客船をつかうことが決まった.
気は確かか?
と問いたい.そのまえに,どういう計算なのかも教えてほしい.
どうしてこのような発想の「貧困」が現実になるのかわからないが,民泊制度に失敗した政府に媚びて「緊急事態」をアッピールしたいのだろうか?
「ハイテク国家」を「おもてなしの基本スタンス」として,接客ロボットを開発して外客を驚かそう!という子どもだましに,何億円をつかいながらの体たらくである.
緊急時に,客船をホテルにする,という発想の原点には,「病院船」がある.
これは,まともな軍隊を保有している,わが国以外の国にとっては常識である.
つまり,どこにも「豪華さ」などというイメージはない.
そもそも客船の客室面積が,どれほどなのか?
対象となる船は,「サン・プリンセス」号である.
運航するプリンセスクルーズのHPによると,スイートルームで50から60㎡.
海側バルコニーの部屋で17㎡,窓がない内側ツインで14~15㎡.
すなわち,陸上ならビジネスホテル並みの面積である.
「窓がない」のは,改正旅館業法でクリアできる.
この事業を認可した国土交通省は「やってやった感に満ちていて」例によっての上から目線で鼻が高いらしいが,サン・プリンセス号の船籍は「バミューダ諸島」である.すなわち,英国領である.外国船籍の船を誘致できて自慢するのがわが国の国土交通省なのだ.
ところで,魔の海のミステリーの方が有名なバミューダ諸島であるが,おもな産業は金融業と観光である.金融は,あの「タックスヘイヴン」の地域である.これと「船籍」は無縁ではない.
イギリスのシンクタンクが毎年発表する金融世界ランキングの,2018年版では東京が5位.バミューダ諸島は36位.
37位がバンコク,40位がクアラルンプールだから,けっしてあなどれない.
しかも,バミューダ諸島は,2005年に一人あたりGDPで,世界最高を記録している.
海洋国家の日本に,日本船籍の船舶はすくない.
日本に本社がある船会社も,おおくは外国船籍で登録し,日本を避ける.
理由は,「規制」である.パナマやリベリアが好まれる理由である.
上記ランキングの,トップ5は,ロンドン,ニューヨーク,香港,シンガポールの順になっていて,東京のつぎの6位は上海である.ちなみに,日本でランクインしたもう一カ所の大阪は23位に位置している.
なお,政府が特別になにかを腰を入れてやりますよとアッピールする,「国家戦略特区」というのは,もともとは鄧小平のアイデアである.共産中国とおなじやり方が通じる国になっている.
彼らは,観光業よりもはるかに大きな稼ぎを金融で得ている.英国は,こういうやり方がうまい.
つまり,観光業「だけ」で国家経済を潤わせることは不可能なのだと教えてくれる.
クルーズ船一隻だけで,さもホテル不足が解消できるというのも幻想だろうし,国家が介入するはなしとしても小さすぎる.
「日本船籍を増やす!」ことでもやってみなはれ,といいたくなる.
それで気になるのが,船内「カジノ」の営業である.
これまでは,カジノが禁止の日本から公海上にでれば,外国船籍の船ならカジノ営業ができた.
日本船籍の船が,公海上にあっても日本の法律が適用されるから,現金に交換できないカジノもどきしかできなかった.
こんどは,日本でもカジノができるようになったから,横浜港に接岸中のどの船舶でもカジノ営業ができるのだろうか?
ニュースには,カジノ営業もない,という.外国に行かないから免税ショップも開店しない.
いったい国土交通省は,なにに関与してなにに自慢したのか?
しかし,発表された宿泊料金が,おひとりさま2泊3日で7万円(窓なし14~15㎡)で食事付きだというから,いいお値段だ.カジノができたら半値以下になってもおかしくない.
これでは単純に,動かない,というだけの値付けだ.
横浜港に停泊して,オリンピックのどの競技をみに毎日移動するのかしらないが,2000人の移動はどうするのか?
大桟橋からの公共交通は,みなとみらい線をつかいなさい,と.
あとは,臨時バスで対応すればいいだろう,ぐらいしかないのだろう.
なんとも,悲しくなるほどの貧困なる発想である.
利用者目線,客目線の完全なる欠如.
結局のところ,天下のJTBが確保する,「オリンピックのチケット」にプレミアムがつくだけの,抱き合わせ商法ではないか?
それ以外なら,期待して泊まったひとたちががっかりして,結局は「嫌われる努力」をしたことにならなければいいがとおもう.
横浜市長は民間会社の役員を経験されたという経歴が光っていたが,まさか「女性枠」でなっちゃったということなのかを疑いたくなる「おそ松さん」である.
既存のホテルには目もくれない.
話題性の追求で,なにか仕事をしているふりができるし,チヤホヤもされて気持ちいい.
東京都知事にまねっこしたのかしらないが,目線が小さすぎるのは国家の役人以上である.
大桟橋に,かっこいい船がなんでもいいから停泊してくれれば,部外者という観光客が,インスタ映えの写真をもとめてやってくる.そのひとたちが,すこしでもお金を使えば,横浜の役に立つではないか.
これは,昭和30年代の温泉街における誘致の手法・発想である.
バミューダの人口は6万5千人あまり.ここに上下二院の議会がある.
彼らの知恵が,我らにないことを残念におもう.