マックで語る会社の愚痴

関東で「マック」、関西だと「マクド」。
この言いかたのちがいが、わが国の言語的文化圏の「境界」をしめすから、旅先で時間の余裕があるときに、この世界的ハンバーガーチェーンに立ち寄ることにしている。

自国通貨と外国通貨の価値をはかるとき、さまざまな手法があるなかで、「購買力平価説」のなかでも、「ビックマック平価説」がもっともわかりやすい。
ビックマック一個が、円でいくら、ドルでいくら、ユーロでいくら、と書いていけば、為替レートをただしくしることができる、ということだ。

これは、ビックマックを提供する仕組みが、「世界標準化」されているからである。
材料の調達から、流通、そして調理と、すべてが「標準化」のルールによっている。

つまり、ビックマックとは、人類がはじめて経験した食品における「世界中でどこでもおなじ」なのである。
もちろん、フィレオフィッシュでも、ただのハンバーガーでもいい。
宗教的にいえば、「フィレオフィッシュ」が最適な比較対象になるだろう。

店舗の配置も、世界どこでもだいたいおなじだから、ちがうのは「利用者だけ」という特徴がすばらしい。
店内で国民性がむき出しに比較できるのも、世界標準を達成したチェーン店ならではである。

平日のひるさがり、店内には主婦たちがたむろしている。
なかには、「現役」のパートさんやアルバイトさんたちが、「職場の問題点」についてミーティングをしていることがある。
一種の日常の光景になっている。

ここで語られている内容に、とくだん聞耳を立てているわけではないが、あんがい興奮した奥様たちの声が通るので、聞きたくなくても聞こえてくるのである。
べつのいいかたをすれば、けっこうな「騒音」である。

まず、人数のちがいによる特徴がある。
グループなら、おおくても6・7人。ここには、かならず「ボス」がいて、このひとが「仕切っている」から、そうじて議論が日和っていることがある。

つまり「同意」の意思表示の場なのだ。

ところが、ボスや数名の子分たちが先に帰宅すると、たちまちにしてちがう話に豹変する。
もちろん、のこった数名、あるいは二名による話し合いは、なぜか「声を潜める」ところからはじまるのだ。

三名のばあいと二名のばあいとで微妙にことなるのは、三名だと一名が「ボスのスパイ」であるかもしれないという「疑心暗鬼」がまじることがあって、安心のお友達どうしである二名のときの赤裸々さとはちがうことがある。

しかし、どんなパターンであれ、共通している話題=議題は、上司である社員への批判か、作業上の「無駄な手間」についての告発なのである。
そして、どんな話し合いであれ、けっして結論を合理的にみちびくことはなく、みごとに「愚痴」でおわることである。

自腹での「セルフ・ガス抜き」なのだ。

そのベテランぶりからすれば、時給で1200円以上のひとたちではないかとおもわれるので、時給を人数換算すれば、ずいぶんな金額が「愚痴代」になっている。
6人で一時間なら、7200円分の負担をみんなでしているし、場所代としてのコーヒー分もある。

まったく「気の毒」になるのは、こうしたミーティングをもしや毎日やっていないか?と気になるからである。
長いと、夕食の買いもの時間まであるから、席をあたためるのは一時間どころではない。

おそるべき「損失」である。

会社として、ちゃんとこのひとたちの「本音」をききだして、適切な処置をくり返せば、おどろくほどの生産性が向上し、なおかつ、本人たちの時給もあがるだろうに。

つまり、ほんとうは社内のさまざまな決定の場に、参加したいのである。
けれども、「パートですから」とか「むずかしいことは社員さんで決めてください」とか、まわりの手前、こころにもないことをいっているうちに、ほんとうに「疎外」されてしまったのだろう。

それにしても、こんなひとたちの顔を毎日みているはずの社員さんや管理職、あるいは会社とは、いったいどういう存在なのか?
「宝の持ち腐れ」とはよくいうものである。

雇用形態のちがいだけで、身分制化して発言を奪うことによる「損失」をぜんぜんかんがえていない。
これをふつう「愚か」というが、「愚かな企業」がたくさんあるということである。

それでいて、「愚痴」の典型は、「経費削減」なのである。
現場を熟知しているひとたちからすれば、表面上の「経費削減」よりも、もっと効果的な方法があるとおもっている。

「社員のくせしてわかっちゃいない」とは、このことをさす。

たまにはこういった場所にでかけて、「愚痴」の数々をリサーチしても損にはならない。

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