仕事がら「モバイルPC」がないといけないシーンはたくさんある。
なかでも「文章の作成」とプロジェクターへの「投影」は、必須になる。
これは、いうまでもなく「インプット」と「アウトプット」の関係にある。
パソコンで「インプット」といえば、いまでも圧倒的に「キーボード」を必要としている。
たとえば「音声入力」が便利だといっても、そんなにスラスラと文章を言葉にするのはかんたんではないし、結局、修正するのにキーボードが必要だ。
また、この「動き」を補助するのは、「マウス」であって、「タッチパッド」がどんなに技術革新してもかわらない。
むしろ、タッチパッドは緊急時に仕方がないからつかうのであって、マウスが利用できるなら、そちらが優先する。
客先にむかう電車のなかで、資料の修正をしなくてはいけなくなったとき、運良く座れたものの、しっかり膝のカバンの横でマウスを走らせていたものだ。そんな状況でも、タッチパッドは不便だとおもうのはわたしだけか?
すると、昨今の「モバイルPC」は、軽くて薄いことを売り物にする分、必然的にインプットの「不満」が、高まることはあっても減ることがない。
これは、本体の「薄さ追求」とキーボードの「キーの深さ確保」が相反するからである。
いわゆる「高級キーボード」でしられる、静電容量式のキーボードの「心地よい『打鍵感』」は、その深さを「キーストローク」といって、深さ4mmもあるのだ。
よくいわれる「キーピッチ」とは、キーとキーとのあいだの「幅」のことで、1.9mmが標準というのは、おとなの手の指が動くときの感覚とマッチするからである。
これは、設置したときの本体の面積と関係するので、すぐさま小型画面のPCの弱点となる。
だから、標準型以上になると、「キーピッチ」ではなくて、がぜん「キーストローク」が、つかい勝手をきめるのである。
さいきんのモバイルPCは、1.5mmもあれば上等だから、打鍵感の貧弱は否めない。
外出先で長文を入力する必要があるときには、上質な「モバイル・キーボード」を携行したくなるのは、圧倒的なつかい勝手と、疲労感がちがうからである。
いわゆるPCによる「肩こり」の原因にもあげられるのは、打鍵感のわるいキーボードは、人間の感覚とマッチしないからでもある。
そうなると、「モバイル・キーボード」が、PC本体とおなじタイプの「薄さ」や「軽さ」を追究したものだと意味がない、という問題になるはずだが、どういうわけかそういう部類のモノが売られていて、はたまた売れているらしいのはどういうことか?
ここに、あいかわらずの「プロダクト・アウト」を感じるのである。
メーカー側が、都合のいい製品をつくるばかりで、消費者に都合がいい製品が見あたらなければ、不都合を承知で購入するしか選択肢がないからである。
入力補助の役割だからといって侮れないのが「マウス」である。
しかし、これも「決定版」に乏しいから、ついうっかり買い足して、いくつものマウスを所有しているというひとは多いだろう。
あるいは、自分が気に入ったものを複数購入し在庫保存していて、もしもの「製造中止」に備えているひともいる。
わたしが知り合ったひとのなかでも、表計算ソフトの「エクセル」を日常的に多用しているひとは、マイ・キーボードとマイ・マウスをかならず携行し、壊れたときのための予備も自宅あると自慢しているひとがいた。もちろん、このひとは、モバイルPCも携行しているから、ビジネスバックでははいりきらず、旅行バックで移動する必要があった。
総重量を聞きたくなかったが、本人から「重いです」と笑顔でいわれたのが印象にのこる。
キーボードには数値入力のための「テンキー」がなければならないので、キーボードだけでもモバイルPCより重いはずであった。
それで、愛用のマウスはなにかと質問したら、専用ソフトでボタン設定が自由にできるタイプのモノで、手に馴染まないといけないから、「これしかない」という検討の末の結論だという。
なるほど、と思ったのは、「日本製」ではなく、「スイス製」だったことだ。もちろん、ほんとうの製造国は別であっても、知的財産はスイスの会社のものだ。
「マウス」という機械の、読み取り精度やボタンの耐久性などは、日本製に一利あるがそれだけで、ソフトウエアの便利さがちがう、というのだ。
マウスのボタンが、つかうアプリケーションによって、設定が自動的に変わるし、そうした設定があらかじめできる、という「機能」が購入されている。
こうなると、モバイルPCのタッチパッドは「不要」ということになる。
さらに、一般人でも薄々気づくひともいる「日本語キーボード」への不満もくわわる。
キートップに「ひらがな」が印字されているのは、「ひらがな入力」のためで、これこそが「日本語キーボード」の存在理由なのである。
おそらく、ほとんどのひとが「ローマ字入力」しているはずだから、だったらいわゆる「英語キーボード」のほうがつかいやすい。
「Enterキー」が、英語キーボードのほうが右手小指に「近い」から押しやすいし、「スペースキー」が、長いからちゃんと両手の親指で「日本語変換」ができるのだ。
日本語キーボードは、パソコン泰明期の日本語入力方式にかんする混乱と苦労が、そのまま「JIS」になって、いまでも守られている不思議がある。
日本語の標準的な入力方法はとっくに「ローマ字入力」にちがいない。
だったら、ローマ字入力用の「JIS」をつくるならいざ知らず、「ひらがな入力」をかたくなに維持するのも、やっぱり「プロダクト・アウト」なのである。
結局、モバイルPCが、軽くてサイズも小さくなった分、快適な打鍵感の英語キーボードと、多機能マウスを携行するので、あんがいむかしと総重量がかわらないのである。
むかしのノート型パソコンは、しっかりしたつくりだったから、マウスだけ携行すればよかった。
そんなわけで、「マーケット・イン」によるモバイルPCが、手頃な価格でないものかと、ない物ねだりをするのである。