むかし、「米どころ」で有名な県にある旅館の再生で、調理場提案の「発酵玄米」をやったことがある。
毎日提供するために、炊飯器が何台も必要になるけれど、使わなくなってお蔵入りしているのが利用できるから、新規購入の必要もない。
そこで、従業員みんなで「試食」をしたら、「米どころ」のひとたちが皆「旨い」と納得した。
発酵玄米だけでは過激なので、従来通り白米も提供した。
お客さんを観察していると、「赤飯」と間違えているひとが続出した。
それで、「発酵玄米」の健康効果をポップにして掲示したら、ジワジワと人気があがった。
日本のふつうの家には、炊飯器は普及しているけれど、それが複数台ある家はふつうではない。
一台だと、発酵玄米が保温状態で完成するのに数日かかるので、ご飯を食べられない日がでてくるのである。
ここが、やや安易だけど「ふつうじゃないサービス」になった。
別のことを「傾向」として「確信」をしたのが、従業員がお客様に声かけして勧められない、という現実である。
せっかく手間をかけて、ふつうの家ではできないことをしているのに、掲示してあるポップに気がつかない「客が悪い」になるのだ。
そこで、どんなふうに教えてもらうと嬉しいのか?ということをテーマにミーティングを開いた。
パートさんたちは始めいぶかったけど、そのうち盛り上がって、最後は「セリフ」を決めた。
すると、こんどは掲示しているポップが邪魔になるという。
説明がおなじだからだ。
でも、波状攻撃が効くからと続けたら、だんだんと消費量が増えた。
これに気を良くしたのは調理場だ。
こうして、手間はかかるけど、嬉しい料理がさらに出るようになった。
世の中は、とにかく健康ブームが終わらない。
「ブーム」というのは「一時のこと」なので、もう健康ブームというレベルではなくなった。
この原因に、中途半端な科学知識がある。
さらにその原因に、「高校全入」があるとおもわれる。
義務教育を終えたら、次は「高等学校」へ進学することが常識となった。
じつは、日本の高等教育は、大学の専門課程からはじまって、ついには大学院でとなるようにできている。
「高等学校」と「大学教養課程」いう足せば5年間にもわたる看板に「疑義」がある。
なぜなら、高等学校は、「学習指導要領」に従っているから、「均質的な知識の伝達」に重きがある。
これが、「大学入試」の根拠なのである。
「均質的な知識の伝達を受け入れているか?」
受け入れた子どもは「合格」し、拒否した子どもは「不合格」となる。
その受け入れた子に、さらなる均質的な知識の伝達をするのが「教養課程」なのだ。
そんなわけで、科学の均質的な知識しかない、あるいはこのレベルにもないひとたちが、健康とは科学によると信じている。
人間は、摂取したものを消化して、栄養を得るのは正しいけれど、その「範囲だけ」ではない。
むしろ、いまだに「わからないこと」のうえに生きているのだ。
この「わからないこと」と、均質的な知識かあるいはそれ以下による「わからないこと」が混ぜこぜになって、なんだか「わかったような」気がしているのだ。
その典型的分野は、微生物による「発酵」である。
この真逆に、「腐敗」があるから、発酵と腐敗は表裏をなす。
へんてこりんなナショナリズムで、発酵食品の文化で日本は世界一だと自慢するむきがある。
あたかも、世界には日本「しか」発酵食品がないかのごとくの言い分には違和感しかしない。
たまたまだろうが意図したものであろうが、ながい時間の流れの中で、ひとは発酵と腐敗を見分けてきた。
それが、なぜか「臭覚」や「味覚」になって、発酵したものは「旨い」けど、腐敗したものは「吐き出す」という反応になっている。
一般的に、酵母菌、麹菌や乳酸菌、納豆菌とかの「菌」をつけていうけれど、別の分類では、カビ、細菌、酵母という分け方がある。
「酵母」は、酵母で、「麹」は、カビ、乳酸菌や納豆菌は細菌にあたる。
さてそれで、麹は、特殊な菌である。
地球上に、わが国を含めて東南アジア地域に「しか」自然界にいないのだ。
それでもって、麹をつかった食品は日本独特なので、「国菌」という栄誉をあたえている。
どうしてかたまたま「麹」が日本にいて、それを先人たちがたまたま利用した。
この麹こそが、「旨味」をつくる原因物質なのだ。
旨味をつくるには、さまざまな「酵素」をもちいる。
これが、味の「深み」となるのである。
さいきんになって、ようやくヨーロッパ人が気がついた「味覚」でもある。
「UMAMI」がそのままあたらしい単語にもなったのは、自国語で表現できないからである。
彼らは、肉の腐敗とたたかってきた。
そのための、胡椒を得るのに、何人のアジア人を殺してきたか。
胡椒がなかった時代のフランス料理を食べたいひとはいないだろう。
人類の歴史で、ヨーロッパが胡椒をしったのは、つい最近なのだ。
そんなわけで、発酵タマネギには、麹をつかう。
タマネギはおろし金でおろすか、フードプロセッサーでペースト状にする。
皮をむいておろす前に重量を計って、1/3の重さの麹を用意する。
麹には、麹の分量も加えた全量の1割ほどの塩を混ぜ込んでおき、これにペースト状のタマネギを加えてよくかき混ぜる。
煮沸消毒した瓶などに詰めて、毎日かき混ぜること5日で完成。
なお、ふたにはペーパータオルを挟んで、すこしだけ空気を通す。
納得の「調味料」ができあがる。