中国製の餡こ

スーパーマーケットは観光地である.
国内でも海外でも,旅行先のスーパーマーケットにはかならず寄ることにしている.
国内だと,ほとんどが全国ブランドだが,すみずみまでよく観察すると,いがいなコーナーにみたことがない商品があったりするからやめられない.

現地在住のみなさんには,おそらくその「珍しさ」はないだろう.
とくに,静岡県は全国ブランドが,全国販売前に試験販売する地域だから,どうしても長時間滞在になる.
しかし,静岡県にかぎらず,他県でも,珍しいものが発見できる.
これらは,あくまでもわたしの目線なので,それぞれの目線からさがすことをおすすめしたい.

さて,外国のスーパーには日本にはない独特の雰囲気がある.
そもそも.カゴやカートから構造がちがう.
ヨーロッパでは,カゴに車輪がついていて,手提げ部分が棒状になって床を引きずり回すようになっている.
食べ物がはいっているカゴを床に置いて,足で動かしながらレジの順番を待つひとがいるから,これを批難してもはじまらない.

レジ係は着座していて,客がカゴから商品をだして精算するようになっている.
土産にと,おなじ商品を箱買いしても,レジ係が箱をこわして一個ずつにレーザー照射する.日本だと,「一つ照射×個数入力」をして手早いがそうはいかないルールがあるらしい.
ただし,現地人は支払方法は現金払いではないことのほうがおおいから,この点,日本人はクレジットカード精算以外なら海外でも現金払いを苦にしない.

ヨーロッパ現地人は,携帯やクレジットカードであっても日本の「スイカ」のように端末にかざすと精算できる「NFC」式が主流で,とくに後から普及した東ヨーロッパでの利用率は高い.
今年の春になって,日本でも大手カード会社が外国仕様の「NFC」に対応できるようにしてくれたから,日本で買える「NFC」機能がついたスマホで外国でも買い物ができるようになった.

だからといって,日本と香港にしか普及していない「スイカ」のような,「FeliCa」式がすぐに廃れることはないだろう.「FeliCa」の処理スピードは,「NFC」の追随をゆるさない速さだから自動改札が詰まることはない.
しかし,ソニーの発明の「FeliCa」は,かつての「ベータ」と「VHS」のようなことにならないともかぎらない.「世界」が相手だと,技術的に優れていることが優位とはいえないのは,いまも当時のままだ.

ヨーロッパのスーパーで目立つのは,「UMAMI」コーナーの表示である.
「うまみ」という味覚に,さいきん気がついたのだという.
「味の素」の国の国民からしたら,いまさら感が強いが,事実は事実である.
もちろん,うまみ成分はグルタミン酸とイノシン酸で,それぞれが昆布と鰹節に代表されるから,日本人にとっては言わずもがなの「伝統食」である.

それで,日本食が世界遺産になった時期ともかさなって,「UMAMI」コーナーがいつの間にか「日本食」コーナーになっている店もある.
もっとも本物の「鰹節」,いわゆる「本枯節」は,製造時の「燻し」によるタール付着とカビづけが原因で,EUは輸入禁止だから,「かつおだし風調味料」がヨーロッパでも主流である.

親日国ポーランドの首都ワルシャワ中央駅の地下街には,日本食専門コーナーがある.
海苔巻きをつくるための「巻き簀」は,たいていのスーパーに海苔とともにある.
ここには,甘味,のための寒天まであるから,店内の品揃えはお値段以外,日本国内とあまりかわらない.
そこで気がついたのが「餡」だった.

一般に欧米人は,豆類は塩で味付けする.
だから,「甘い豆」という発想がないから「想像」できない.
「餡こ」は,かれらの食文化と次元のちがう食品なのだ.
ところが,おそろしいのは「文化の力」である.

マンガやアニメで頻出する,ドラえもんの「どら焼き」,Kanonの「たい焼き」.おそ松くんの「今川焼き」.これに,茶道からはじまる日本茶ブームで,和菓子がつづく.和菓子といえば,餡こは切り離せない.
こうして,「餡こ」の需要がうまれた.

ところが,ついて行けてないのが和菓子・製餡業界である.
ヨーロッパで,日本製の餡こを見かけない.
あるのは「中国製」ばかりの「漉し餡」だ.

中国人を褒めるべきか.
日本人は,これは「本物じゃない」というかもしれない.
しかし,そこには中国製「しか」ないのだ.

政府が「クールジャパン」で失敗しているばかりではない.
ヨーロッパ人に,日本製の「餡こ」すら提供できていないのだ.
人口が縮む国内だけを見ていたら,和菓子・製餡業界は苦しいに決まっている.
どこを見なければいけないかの,ひとつの典型なのである.

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