OJT(On-the-Job Training)は,おおくの企業で採用されている教育方式であるが,ここから「TWI(Training Within Industry)研修」がうまれている.
「Industry」という語がはいっているため,製造業と一線を画したがるサービス業ではなじみが薄いかもしれない.
TWIとは,職場教育(企業内教育)の手法の一つで、主に、監督者向けのものをいう.
監督者とは,「現場」がつきものだから,いわゆる「現場責任者」の育成手法のことだ.
英語表現がはいっていることでわかるが,人材育成手法として戦後,米軍が日本に伝えたものである.
これは,「進駐軍」の功罪のうち,確実に「功」となったもののひとつであった.
当時の日本企業が,どのくらいの驚きと衝撃でこの手法を受け入れたかについては,導入した企業内では「伝説」になっているはずである.
だから,導入しなかった企業には,なにもないのは当然で,さいきんはOJTやOFF JTでさえ主旨をとり違えたあやしい企業はたくさんある.
その証拠に,目的と内容の合致ではなく,入札方式という「金額の多寡」で研修講師を選定している本末転倒を散見することができる.もちろん,単に安いほうが落札できる.
経営者が「人財」という経営資源に無頓着で,人事や研修担当に丸投げしているのがよくわかる事例である.
業界はなんであれ,利益をだしたければ人財育成「しかない」ことをしらない人物の所業でもある.
「後進の育成」という名目で,役職定年制や定年退職者の再雇用がおこなわれたが,かなりの企業でそれは文字どおりの「名目」であって,「実質」がともなっていないことが認められる.
「後進の育成」ではなく,引き続き現役時代と同程度の「作業」を命じられ,しかも年収は半減させられるのが実態だろう.
「方便」もここまでくると「うそ」になる.
過日は,ベテランドライバーが再雇用によって命じられた,社内清掃業務への従事を「不当」と訴えた裁判で,原告敗訴の判決がでていることでも,「名目以下」の状態を国が認めたかたちになっているから嘆かわしい.
高齢者雇用で人手不足の「人手」が,安く手に入から「得」だとかんがえる愚かさは,社内の高齢者層がひととおりいなくなったときに気がつくだろう.
そのときの若年者数は,数年前の半減レベルになっているから,争奪戦もはげしいだろう.そうなれば,選ぶのは若者のほうになるはずで,その企業で高齢者がどんな境遇におかれているかも将来の自分にてらして選択基準となるのは必定だから,愚かな企業は採用が困難になってしまう.
そのうち,人材紹介業界が,高齢者の働く満足度や企業内文化の比較調査をやって,ランキングをつくるはずだ.それが,株価に反映されてもおかしくない社会になる.
だから,いまの経営者が引退して逃げ切れたとしても,後任から突きつけられる経営判断の甘さの汚名だけは避けられない.
もっとも,いま「得」だとうそぶく人物は,自己の名誉すら気にしない神経だからできるだろうから,本人はさしおいて,組織の傷はより深くなるだろう.
はたして,「後進の育成」とはいかにあるべきなのか?
TWIが現場責任者向け,ということで,以下の四つのポイントを骨子にしている.
TWI-JI(Job In-struction):仕事の教え方
TWI-JM(Job Methods):改善の仕方
TWI-JR(Job Relations):人の扱い方
TWI-JS(Job Safety):安全作業のやりかた
どの項目も,みただけで「ハッ」とさせられるような気がする.
この四点がさいきんの「不祥事」の発生ポイントにもなっているからである.
本稿では,最初のJI:仕事の教え方の「精神」に注目したい.
それは,つぎのことばに集約されている.
「相手が覚えていないのは自分が教えなかったのだ」
これをアメリカ軍が教えてくれた.
スポーツ根性ものよろしく,日本人は「スパルタ式」がだいすきで,できないのはできない本人が悪い,という思想の真逆にあることにも注目したい.
名将ということになっている山本五十六提督の名言.
「やってみせ,言って聞かせて,させてみせ,ほめてやらねば,人は動かじ.
話し合い,耳を傾け,承認し,任せてやらねば,人は育たず.
やっている,姿を感謝で見守り,信頼せねば,人は実らず.」
最初の一行が「有名」で,一瞬,TWIのようなのは,さすが当代随一の親米派のいったんをみるようだが,ごらんのように下に「余計な」二行がつづく.
よく読むと,米軍の「相手が覚えていないのは自分が教えなかったのだ」という思想とはぜんぜんちがう,上から目線であることに注意したい.
つまり,教える側は「つねに正しい」というかんがえがにじみ出ていて,そこに「反省」の精神がないのだ.
山本提督の名言は,いまでも「名言」としてしられており,学のある管理職ならよく口にすることばであろう.
つまり,この名言の思想が,精神基盤の深いところに染み込んでいるのが日本人の本質ではあるまいか?
であればこそ,米軍がもたらした「TWI研修」の真逆が,衝撃的だったのだ.
昭和20年代の半ばから,「TWI研修」がはじまるから,受講したもっとも若いひとたちは国民学校世代になる.
戦後の製造業の発展につくしたこの世代が,定年したのはバブル崩壊後の95年あたりからなので,TWI研修の精神も,バブルのイケイケで傷ついたのではないか?
そしてその後,企業が自社研修の余力をうしなって,とうとう山本提督への先祖帰りをしてしまった.
「名言」が名言たるゆえんは,凡人には実際にできないからである.
ことばだけが空虚をかさね,「部下の手柄は上司のもの,上司のミスは部下のせい」という本質があらわになっただけでなく,それが「外資のよう」だと勘違いする.
アメリカは,いまだに世界最大の製造業大国であることをわすれているのも,勘違いの深さである.
そのアメリカで,TWI研修は三洋電機から逆輸入されて息を吹き返し,近年では医療というサービス分野にもひろがって実績をあげている.
反省の「精神」が健全な証拠なのだ.
今日は秋分の日.
秋のお彼岸である.
これからの四半期は,冬至にむけて昼がみじかくなっていくから「秋の夜長」になる.
先祖帰りさせてはいけない,後進の育成について,じっくりかんがえるのにもよい時期だろう.