難しい話である。
利他主義の反対語は、「利己主義(egoism:エゴイズム:エゴ)」で、これから「利他主義(altruism:アルトゥルーイズム)」を造語したのは、フランスの哲学者にして社会学者、数学者でもあるオーギュスト・コント(1798年~1857年)である。
「社会学」というのも、彼自身の造語であるから、当然に「社会学の祖」だ。
ちなみに、パソコンの「Altキー」は、「Alternate key」の略で、「Alternate」とは、「交互」や「代用」を意味している。
接頭辞の「Alt]は、ラテン語 altus、印欧祖語 al- が由来で、「高い」という意味だった。
さて、「利他主義」には、「エゴ」のような日本語がない。
これは、「altruism」が日本語訳されるとき、仏教用語の「利他」をあてはめたからで、これがそのまま「利他主義」ということになったからだ。
つまり、ぜんぜん「いわれ」がちがう語をあてはめた。
このときの「いわれ」とは、自動的に、「仏教」に対する「キリスト教」になる。
しかも、キリスト教の、『旧約聖書』に起点を置くことになるので、ユダヤ教やイスラム教とも共通する。
それが、日本人にはなかった、「原罪」の概念なのである。
「原罪」とは、アダムとイブが、禁断の木の実を食べたこと、であって、これが原因で、「楽園追放」となり、人類は「労働」をしないと「いけない」ことになったのである。
そしてそれが、さらなる「悲劇」を生んだ。
アダムとイブの二人の息子、カイン(農耕者)とアベル(牧畜者)の間で起きた、「殺人」である。
人類の祖先は、アダムとイブである、という「教え」とは、「系図」でいえば、殺人者カインの子孫であることを示す。
これが、旧約聖書を原典とする宗教の、根本概念になっているから、旧約聖書をしらない日本人と、「根本的なちがい」となるのである。
しかしながら、いつの時点で計画されたのかわからないけど、「日本占領」の基本プランに、「原罪」を埋めこんだのである。
それが、「戦争の絶対悪」という概念で、日本国憲法「前文」と「第9条」に「書き込んだ」のである。
明文憲法を、日本人にとっての「旧約聖書」にしたから、憲法改正ができないのは当然で、だれが聖書を書き換えることができようか?も、同時に埋めこまれたのだった。
つまり、「利己主義」に、「エゴ」という日本語をあてて、これを、道徳として「憎む」ようにしたのは、「個人主義(individualism)」を憎むようにすることの「本音」を隠蔽するためでもある。
「individualism」は、ラテン語の「individuus(不可分なもの)」に由来するから、「利己主義(egoism)」とは、まったく「いわれ」がちがう別物なのに。
したがって、戦後の日本人は、「利己主義=個人主義」にされてしまったことにも気づかないでいる。
つまり、隠された「個人主義」の「独立心」を日本人に持たせないための、「しかけ」がいまでも有効な証拠なのだ。
そして、「原罪」だけは有効だ。
すると、「利他主義」の本質とは、この「原罪」につながって、「他人のため」という道徳が、おどろおどろしい「全体主義」に結びつくことも、隠されていることに気づくのである。
自分のためから、他人のために変質すると、為政者にとって「コントールしやすい社会」になる。
しかも、「自分のため」すら、「個人主義」をいうのではなくて、「エゴ」のことにするので、より一層、「他人のため」が道徳だと勘違いする。
占領政策で、なぜこんな「ややこしい仕掛け」をしたのか?
日本を占領する計画者は、日本人以上に日本人を知っていたにちがいない。
すさまじい「日本研究」を、戦前からしていないとできっこないのだ。
この点、現代日本人は、すさまじい「アメリカ研究」をしていない。
日本人は古来、「お互い様」という概念で、「個人主義」を知っていた。
「自分は自分」だから、「相手も尊重」することが道徳だった。
そのことの言語システムが、「尊敬語」の用法だった。
尊敬語がフラット化したのは、「平等主義」だからではなくて、日本人から「個人主義」を奪うのが目的だ。
日本人に個人主義があること、それが、占領目的にとって「まずい」のである。
たとえば、民間人を虐殺した、日本各地への「空襲」や、その究極の「核」の使用だって、「お互い様」を言われたら論理破たんする。
重要かつ必須なのは、「個人主義」に起点をおいた、「利他」であることを意識しないといけないことだ。
自分や自分の子孫のため、という「個人」の優先が、「お互い様」となればいい。
ただ自分を棄てて、他人のため、を言うと、為政者は「国家のため」を金科玉条に、都合よく支配することを可能にする。
まさに、「個人」が壊されるから、全体主義になるのである。
ここに「紙一重」の難しさがある。
だから、意識しないと「いけない」のだ。